着物レンタル大手「和心」、コロナ禍の経営不振による退店トラブルを調停解決
2022/12/20   契約法務, 不動産法務, 民法・商法

はじめに


着物レンタル事業などで知られる株式会社和心(東証グロース上場)は、12月16日、同社店舗の賃貸借契約を結んでいた株式会社ラウンドタートルから提起されていた訴訟について調停により解決したと発表しました。調停内容としては、和心がラウンドタートルに対して解決金486万円を支払い、ラウンドタートルが訴えを取り下げるというものです。本記事では、このコロナ禍の経営不振を原因とした退店トラブルについて解説します。
 

事案の概要


株式会社和心は、和小物の販売事業や着物レンタル事業を手掛ける企業です。新型コロナウイルス感染症の拡大により売上が厳しい状態が続いた和心は、店舗不動産の賃貸人である株式会社ラウンドタートルに賃料の減額を申し入れました。この申し入れをラウンドタートルは了承し、覚書を締結しています。しかし、その後も和心の売上の回復が見込めなくなったことで、店舗営業の継続は難しいと判断。ラウンドタートルに対し、退店の申し入れを行いました。

これを受けて、2022年1月11日、ラウンドタートルは和心に対し、減額前の賃料との差額および退店通知日以降の賃料(減額前の金額)総額として、金1,212 万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求め、京都地方裁判所に提訴しました。

 

賃料の支払いと民法


新型コロナにより緊急事態宣言などが発令されたことで一時的に営業ができなくなったり、時間制限が設けられ、多くの飲食店や小売業が影響を受けました。店舗営業を一時的にストップせざるを得なくなった企業や、閉店や撤退を決意し退去したというケースも多いのではないでしょうか。コロナ以外でも、豪雨による雨漏りや、地震による損傷で営業ができなくなる場合もあります。そうした際、賃料の法的な取り扱いはどうなるのでしょうか。

まず、民法上、賃借建物の賃借人が同建物で営んでいる事業の不振により売上が減少したとしても、それは賃借人が負担すべき事業リスクに過ぎないとされています。また、賃借人は、「不可抗力」をもって、賃料債務の支払い遅延に対する遅延損害金の支払いを免れることができないと明示されています。(民法419条3項)

すなわち、賃借建物の賃借人には、コロナ禍の経営不振を理由に賃料の減額や支払猶予を求める権利は民法上ないことになります。

一方で、改正民法611条では賃借物の一部が壊れるなどして営業できなくなった場合、その原因が賃借建物の賃借人の責任でないときは、賃料はその使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額されるとしています。地震等の災害で建物の一部が損壊した場合などに適用されます。

具体的には、「一定期間少なくとも建物の一部について占有が不能となり使用ができないのと同様の障害が生じ、社会通念上賃料全額の支払いを求めることが相当でないと判断される場合(東京地裁平成15年7月15日)」に賃料減額が認められ、減額の度合いはどのような不具合があるかにより変化します。



貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン(公益財団法人日本賃貸住宅管理協会)

例えばガスが6日間使えなかった場合、月額賃料が10万円だとすると、月額賃料 100,000 円×賃料減額割合 10%×(6 日-免責日数 3 日)/月 30 日 =1,000 円の賃料減額(1日あたり約333円)となります。

またある一戸建ての賃貸借の事業所で、2階部分の3分の2が雨漏りのため2年間使用できなかった際、月額賃料の25%の減額が認められた例もあります。

このように、賃借建物の一部損壊がある場合には、民法上、賃借人から賃貸人に対して賃料減額を求める余地が出て来ます。

 

コメント


上述のように、賃借建物の賃借人の店舗が経営不振に陥った場合でも、それを理由に賃貸人に対し賃料の減額を求める法的な権利はないといえます。一方で、ショッピングモールなどでは、今回の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、経営不振に陥った賃借人に対し、賃料減額の合意を行ったところは少なくないと聞きます。

賃貸人としては、当時のコロナ禍(緊急事態宣言下)でショッピングモール自体への集客が見込みづらい中、新たな賃借人を探すことに困難を伴うことから、多少の減額を飲んででも、穴を開けず継続的に賃料を得たいというビジネス上の思惑もあったのだと思います。

今回、ラウンドタートルが具体的にどういう根拠で和心に請求を行っていたのか明らかにされていませんが、一般的な不動産実務を踏まえると、おそらく賃貸借契約中に、「賃借人が賃借期間中に解約する場合、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払う」旨の条項が盛り込まれていたのではないかと推測されます。

こうした違約金条項に対しては、東京地裁平成8年8月22日判決にて、公序良俗違反で一部無効との判断が下されたことがあります。この事案では、期間4年の建物賃貸借契約を締結した賃借人が10か月で解約した際、賃貸人から違約金条項を根拠に残りの3年2カ月分の賃料相当額の違約金を請求されていました。これに対し、東京地裁は、違約金条項は、1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効とし、残りの2年2ヶ月分については公序良俗に反して無効としました。

裁判所の判断は、個別の事情に大きく左右されるところがあるため、今回の和心の訴訟が調停解決しなかったときに、裁判所が違約金条項の効力をどのように判断したかは不透明です。また、違約金額を算定する際のベースとなる月額賃料を、減額前のものとできるかという点でも争いになった可能性があります。こうした見通しの不透明さも、ラウンドタートルが調停解決を選んだ理由かもしれません。

建物の賃貸借契約の賃借期間中の解約の際は、違約金条項がどの範囲で有効と判断されるかを予想しつつ、次の賃借人の確保のしやすさ、賃借人の支払能力などを加味して、慎重に交渉を行う必要がありそうです。

 

【関連リンク】
賃貸借期間内に賃借人が解約した場合の違約金条項の効力(NPO法人 日本住宅性能検査協会)

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