最高裁、「家賃滞納による明渡みなし条項」に使用差し止め判決
2022/12/13   契約法務, 不動産法務, コンプライアンス, 消費者契約法

はじめに


家賃滞納による明渡みなし条項の効力が争われていた裁判で、最高裁は12月12日、消費者契約法に基づき、同条項を無効とし、条項の使用差し止めを命じました。本件では、家賃債務保証業を営むフォーシーズ株式会社が家屋賃借人と締結している保証委託契約の中に、「借主が家賃を2ヶ月間滞納するなどし、さらに連絡も取れない場合には、賃貸中の物件を明け渡したとみなす」とする条項が含まれており、その是非が、特定非営利活動法人消費者支援機構関西との間で争われていました。
 

問題となった条項


以下が今回争いとなった条項です(読みやすいよう、一部補足・補完・省略してあります。以下「本件条項」といいます。)。

第18条(賃借人の建物明渡協力義務)
2.フォーシーズは、下記いずれかの事由が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明け渡しがあったものとみなすことができる。
①(略)
②賃借人が賃料等の支払を2ヶ月以上怠り、フォーシーズが合理的手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき
 
3.賃借人は、本件建物を明け渡したとき(前項により明け渡しがあったものとみなされる場合を含む。)に、本件建物内(中略)した残置した動産類については、家屋賃貸人及びフォーシーズにおいて、これを任意に搬出・保管することに意義を述べない。


一審の大阪地方裁判所は、本件条項が消費者契約法第8条1項3号(消費者契約における事業者の債務履行に際してされた事業者の不法行為責任を免除等する条項)に該当するとしました。しかし、二審の大阪高等裁判所は、本件条項は消費者契約法第8条1項3号、同法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項)のいずれにも該当しないと判断していました。
 

問題の所在


本件条項は、①賃貸住宅の家賃を借主が2か月滞納するなどして連絡も取れず、②物件を長期間使用せず、③再び使用する意思がみえないという要件を満たした場合に、連帯保証人の一存で物件を明け渡したとみなすことができるというものです。

賃貸仲介業者・賃貸人の立場では、借主が家賃を滞納し連絡も取れない場合、賃貸物件の賃貸を継続しながら後に法的手続を履践して賃料を回収するよりも、即座に明渡を履行させて次なる借主に貸し出して賃料を得たほうが、賃料回収の実効性が高く、明渡しのための法的手続きを履践する手間も省くことができます。

また、家賃保証会社の立場では、連絡不能となった借主の賃貸借契約が継続することで、家賃滞納額が膨らみ、自身の保証額(しかも、回収不能となるリスクが高い)が増加するため、早めに明け渡しとみなされたほうが都合がよいという面があります。

そのため、不動産実務では、本件条項のような「家賃滞納による明渡みなし条項」が活用されていました。しかし、一方で、急遽入院せざるを得なかった者等にも本件条項が適用され、借主にとって酷な帰結となるケースも見られ、問題視されていました。また、そもそも、家賃債務保証業者にあまりに強い権限を付与する不当な条項であるとの批判もありました。

このような議論があった中、今回、最高裁は、本件条項のような「家賃滞納による明渡みなし条項」が違法であると判断したのです。

 

判旨


消費者契約法第10条は、民法・商法その他の法律の公の秩序に関しない規定が適用される場合よりも重い義務を消費者に課し消費者の利益を一方的に害する条項を無効とするものです。

今回の最高裁判決では、本件条項は、この消費者契約法第10条に抵触し、消費者の利益を一方的に害するとして違法と判断されました。具体的には、賃貸借契約の当事者はあくまで借主であるにもかかわらず、当該契約の当事者ではない家賃保証会社の一存で明渡とみなし法的手続を省略できる点が、消費者の利益を著しく害し、不当であると述べています。

また、契約書の中には、「3ヶ月以上の家賃滞納で、フォーシーズ(連帯保証人)が事前通告を経ることなく賃貸借契約を解除できる」とした条項もありましたが、同条項についても違法であると指摘しています。その理由として、「契約解除は生活の基盤を失わせる重大な事態を招き得るため、先だって通告する必要性は大きい」と言及しており、このことからも、最高裁は、不動産賃貸借契約の当事者ではない家賃保証会社(連帯保証人)が契約当事者であるかのように振る舞える特約の不合理性をよしとはしないと考えていることがうかがえます。

 

コメント


今回の判決は、家賃保証業や賃貸仲介業務などを行う企業の実務に小さくない影響を及ぼすと考えられます。大量の消費者に対する画一的かつ効率的な業務処理を実現するためには、家賃滞納および連絡不能となった借主一人ひとりに対して法的手続をとる手間をかけることは、企業としては避けたいはずです。しかし、今回の判決が出てしまった以上、本件条項と同内容を含む契約は、後日、一部無効とされる公算が高いといえます。今一度、自社の雛形の確認、過去に締結した契約の結び直しの検討などを行う必要があるでしょう。

今回の判決は、賃貸物件の借主の権利を重んじたものですが、その反面、家賃保証会社や不動産賃貸会社の未回収リスク増大に繋がる側面もあります。
そのため、今後、家賃未回収リスクを嫌う企業側が、賃貸借契約や家賃債務保証委託契約の締結条件を厳格化することが予想されます。

その場合、相当数の人が住居を容易に賃借できなくなる事態となりかねません。現状すでに、金銭面のリスクや孤独死リスクを嫌った賃貸オーナーが高齢者への物件賃し出しを嫌う傾向がありますが、それが加速するおそれもあります。

家賃を滞納しての連絡不能事案が発生した際に、家賃保証会社や不動産賃貸会社が適切かつ迅速な処理ができるよう、法制度を整備する必要があるのではないでしょうか。

 

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