東芝テックと寺岡精工、セミセルフレジに係る特許訴訟を和解解決
2022/12/07 知財・ライセンス, 特許法

はじめに
東芝テック株式会社は、11月30日、東京地方裁判所にて株式会社寺岡精工との間で争われていたセミセルフレジに係る特許権侵害訴訟に関し、和解により解決したことを発表しました。和解の主な内容は以下のとおりです。
(1)東芝テックは寺岡精工に対し解決金として69億円を支払うこと
(2)東芝テックは、2024年5月以降、同社が提供してきたセミセルフPOSシステムの販売を終了すること
(3)販売終了までの一定期間、東芝テックは寺岡精工から特許等につき有償のライセンスを受け、所定のセミセルフPOSシステムを販売すること
(4)東芝テック、寺岡精工の両社は本件に関する訴訟及び申し立てを取り下げること
東芝テックと寺岡精工
まず、今回の東芝テックと寺岡精工との間でどのような訴訟が起こっていたのかみていきます。
本件はセミセルフPOSシステムをめぐる特許訴訟で、東芝テックに対し、寺岡精工が2021年6月に提訴していたものです。POSシステムとは、小売業のレジなどに導入され、売上や価格、販売した商品などをデータ化し管理するシステムの総称です。「Point of sale」の頭文字をとってPOSと呼ばれています。寺岡精工はこの分野のリーディングカンパニーとして2010年に日本市場においてセミセルフレジの販売を開始していました。
今回争いとなったセミセルフレジでは、店員が客が購入した商品の登録を「登録機」で行ったうえで、特定の「会計機」に商品データを転送、客は店員が商品データを転送した「会計機」で会計を行うというものでした。
東芝テックは、寺岡精工からの提訴を受け、反訴していましたが、今回和解金を支払うことで決着が付いたということです。
報道によれば、東芝テックは今回の件で、特許権を巡る訴訟に絡んで69億円の特別損失を計上。従来は80億円の黒字を見込んでいたところ、2023年3月期の連結純損益が25億円の赤字に転落する見通しと発表し、前年の53億円の黒字から大きく転落する形となりました。
赤字になった背景には輸送費の高騰などもあったということですが、この賠償金の支払いが大きく影響を与えたことは言うまでもありません。
特許をめぐる訴訟は場合によっては会社の存続にも影響します。
産業財産権について
ここで改めて知的財産権についておさらいします。いくつか種類がありますが、今回東芝テックと寺岡精工で問題となった「産業財産権」と呼ばれる特許権はじめ、実用新案権、意匠権、商標権の4つは特許庁が所管しているものです。
産業財産権制度の目的としては、新しい技術、デザイン、ネーミングやロゴマークなどに独占権を与え、模倣防止のために保護し、研究開発へのインセンティブを付与したり、取引上の信用を維持したりすることによって、産業の発展を図ることが挙げられます。
これらの権利を取得することで、一定期間、新しい技術などを独占的に実施、使用することができるのです。
事例紹介
過去に起きた事例をみると、産業財産権侵害と認定された場合のリスクの大きさを痛感させられます。ときに、自社製品の製造がストップしてしまうだけでなく、大きなレピュテーションリスクにもさらされることがわかります。
○切り餅をめぐる裁判
「サトウの切り餅」で有名な業界1位・佐藤食品工業が切り餅の「切り込み」の特許権を侵害したとして、業界2位の越後製菓(新潟県長岡市)が佐藤食品工業の製品の製造販売差し止めと損害賠償を求めた訴訟です。
越後製菓は、切り餅の側面に切り込みを入れる特許を出願していましたが、佐藤食品工業は、切り餅の側面に切り込みを入れた上、上下にも切り込みを入れて販売していました。
1審東京地裁判決では棄却されていましたが、その後、知財高裁は側面に切り込みを入れている時点で特許権を侵害していると判断し、約8億円の損害賠償および食品・製造装置の廃棄を命じました。
特許申請前にできること
では、自社で開発した技術などを、他社が出願していないかどうか確認するにはどうしたらいいのでしょうか。
1つは、特許情報プラットフォームを活用することです。このプラットフォームでは、登録されている産業財産権を調査することができるだけでなく、産業財産権を得ようとしている対象に関係がある技術用語や出願人の名前などを検索すると、他社などが取得済みの権利について確認することもできます。
また、費用面との相談にはなりますが、より慎重を期すのであれば、弁理士に依頼するのが安心です。
出願する技術が他社の知的財産権を侵害されていないか確認できるだけでなく、侵害されないような工夫を一緒に検討してくれます。
仮に侵害していた場合、以下の刑事罰に処される恐れがあります。
●特許権
●実用新案権 5 年以下の懲役若しくは 500 万円以下の罰金 ●意匠権
●商標権
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侵害されていた場合の対処法
万が一、自社の特許を他の企業に侵害されていたら、どのような対処が取れるのでしょうか。
・差し止め請求
まずは被害を最小限にすることが大きな目的です。さらに相手方に対して現在から将来にわたり、権利侵害を止める要求ができます。
また、廃棄除去請求権が認められる場合もあります。相手企業が特許を使って製造した物や、その製造の設備を償却することを求めることもできます。
・損害賠償請求
特許庁では以下のように損害額の算定方法を定めています。
「損害額」=(「実施相応数量の限度における侵害者の譲渡等数量」-「特定数量」)×「特許権者等の単位あたりの利益」+「実施相応数量を超える数量又は特定数量に応じたライセンス相当額※」
※特許権者等が侵害者にライセンスの許諾をし得たとは認められない場合には損害額が認定されない。
一方で3年で時効が成立してしまうため注意が必要です。
・不当利得返還請求
相手企業などが正当な理由なしに、他企業などの損失で利益を享受した場合、その利益を求めることができるものです。
時効が成立するなどし、損害賠償請求権の権利が消滅して場合に請求する場合が多いとされています。
こちらは時効が10年と、損害賠償請求よりも長い期間にわたります。
・被害届
知的財産権を侵害した企業や人物には刑事罰が科されます。
被害額の返還には別で手続きが必要となりますが、仮に差し止め請求などでも権利侵害行為を続ける場合に、やめさせる効果があるということです。
コメント
今回の東芝テックと寺岡精工のような明確な同業他社はもちろんのこと、全く予想外のところから権利侵害を主張されるリスクがあるのが、産業財産権管理の恐さです。常に生まれる新しい技術やデザイン。それが適切に守られ、受けるべき享受を得られるように慎重に活用していくことが重要になります。
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