最高裁が生徒の演奏からの徴収を否定、音楽教室とJASRACの訴訟について
2022/10/25   知財・ライセンス, 著作権法

はじめに

 音楽教室事業者がJASRACを相手取り、教室での演奏に対して著作権料請求権が存在しないことの確認を求めていた訴訟で最高裁は24日、生徒の演奏に対する請求権を否定した知財高裁の判決を支持しました。これで生徒の演奏から著作権料を取れないことで確定しました。今回は音楽教室とJASRACの訴訟を見直していきます。

 

事案の概要

 JASRACが音楽教室から著作権使用料を徴収するとの考えを発表したことを受け、河合楽器製作所、ヤマハ音楽振興会、島村楽器、山野楽器、全日本ピアノ指導者協会等が2017年に「音楽教育を守る会」を設立しました。そして同会をはじめ、約250の音楽教室の運営会社が同年2月にJASRACを相手取り、音楽教室における請求権不存在確認訴訟を東京地裁に提起しておりました。

一審東京地裁は、教師が演奏するか、生徒が演奏するかを問わず著作権料の徴収権が認められるとして原告側の全面敗訴とする判決を出しました。

これに対し二審知財高裁は生徒の演奏については著作権料の徴収を否定する判決を出しました。この部分を不服としてJASRAC側は上告し、原告側も上告受理の申し立てを行いました。

 

著作権とは

 著作権法によりますと、著作物とは、思想または感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものとされております(2条1項1号)。そして著作権は著作物が創作された時点から創作した人に自動的に発生します(17条2項、51条1項)。出願、登録によって初めて権利が発生する特許権や商標権と異なる点です。

著作物は思想や感情を表現したものである必要があることから、事実やデータは著作物には該当しないとされます。またアイデアや理論も具体的に表現されないと著作物に該当しないと言われております。音楽に関する著作物は、曲だけでなく歌詞も含まれ、即興演奏のような形であっても著作物に該当します。

 

著作権者の権利

 著作権者の権利は大きく分けて著作者人格権と著作権に大別できます。著作者人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権などが含まれます(18条~20条)。同一性保持権は著作物の内容やタイトルを勝手に改変されない権利とされます。そして著作権には、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、頒布権、譲渡権、貸与権、展示権、口述権、翻訳権、二次著作物に関する権利などが含まれます(21条~28条)。

演奏権は音楽などを公に演奏する権利でCDなどで音楽を流す場合もこれに含まれますが個人的に楽器の練習などで演奏する場合は該当しないとされております。このように著作権は様々な権利が複合的に集まった権利の集合体と言えます。著作権者以外の者がこれらの権利を利用する場合は著作権料を支払う必要がありますが、著作権の保護期間経過後(51条~58条)や営利を目的としない場合(38条)、私的利用のための複製(30条)は例外的に許諾を得ることなく利用できます。

 

音楽教室とJASRAC訴訟

 音楽教室とJASRACの訴訟での主な争点は、音楽教室内での教師による演奏や生徒による演奏は著作権法22条の演奏権の対象となる「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的」としたものに該当するかという点でした。

一審東京地裁は、(1)監理支配性と(2)営業上の利益に着目する、いわゆるカラオケ法理(最判昭和63年3月15日)に近い基準を使い、教師、生徒いずれの演奏も音楽教室事業者とした上で演奏に当たると判断しました(東京地裁令和2年2月28日)。

これに対し知財高裁は、教師と生徒の演奏行為の本質を分けて考え、前者については音楽教室の事業としての義務の履行とし、後者については演奏技術の教授を受けるために教師に聞かせようとしているものとしました。その上で生徒の演奏は音楽教室が行っているものとは言えず、生徒の演奏についての著作権料を教室から徴収することは否定しました(知財高裁令和3年3月18日)。

 

コメント

 最高裁は二審知財高裁の判決を支持する形でJASRAC側の上告を棄却しました。これにより音楽教室での生徒の演奏から著作権料を徴収できないという結論で確定しました。一審判決とは異なり、知財高裁では教師と生徒それぞれの演奏を一括りにして判断せず、その本質から判断された点が評価できると言えます。

しかし、一方で教師の演奏部分については音楽教室事業でも著作権料が発生することで確定したことからJASRAC側は今後速やかに事業者側と話し合いを進めていくとしております。本判決でJASRAC側と音楽事業者の一連の紛争は決着を見たこととなります。

以上のように著作権は様々な権利の複合体となっており、演奏や複製、上演など様々な形で著作権使用料が発生します。社内だけでの利用といった場合でも著作権を侵害することが有りえます。今一度著作権の概要を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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