かっぱ寿司社長、不正競争防止法違反の疑いで逮捕勾留
2022/10/04   コンプライアンス, 不正競争防止法

はじめに


10月3日、有名回転ずしチェーン店「かっぱ寿司」を運営するカッパ・クリエイト株式会社は、田辺公己社長(46)が退任したことを発表しました。9月30日、田辺社長は、競合他社の営業秘密を不正に取得し不正競争防止法違反の疑いで警視庁に逮捕されていました。
 

事案の概要


田辺前社長は、ライバルチェーン店である「はま寿司」の親会社から転職した前後の一昨年9月から12月にかけて「はま寿司」の仕入れ原価や食材使用量などに関するデータをコピーして不正に持ち出し使用等したとし、不正競争防止法違反の疑いで先月30日に警視庁に逮捕されました。入手したはま寿司の仕入れ原価を使って、社内で両社の仕入れ原価を比較するなどしたと言われています。田辺前社長は、自身の逮捕を理由に、会社側に社長の辞任を申出、3日の取締役会で受理された形です。

今回の事件では、カッパ・クリエイトの商品部長や、元はま寿司経営企画部長も逮捕された他、10月3日には、法人としてのカッパ・クリエイトも不正競争防止法の両罰規定に基づいて東京地検に書類送検されています。

 

不正競争防止法上の「営業秘密侵害」


不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です(同法1条)。

同法により規律されている不正競争行為の類型はいくつかありますが、今回、問題になったのは営業秘密の侵害(同法2条第1項第4号ないし第10号、第21条第1項、第3項)です。

同法で保護されている「秘密」というのは、企業の研究・開発や営業活動の過程で 生み出された様々な営業秘密のことを指します。具体的には、顧客名簿や新規事業計画、価格情報、 対応マニュアル(営業情報)や製造方法・ノウハウ、新規物質情報、設計図面(技術情報)です。

自分や第三者の利益を図る行為、あるいは他人に損害を与える目的で詐欺的な行為や任務違背行為等で営業秘密を不正に取得する行為、及び不正に取得した営業秘密を使用・開示する行為などに対しては、10年以下の懲役又は2,000万円以下の罰金またはこれらが併科されます(同法21条第1項)。

なお、この営業秘密侵害罪については、「行為者」が処罰の対象となりますが、法人の代表者や法人の代理人・従業員が法人の業務に関して営業秘密侵害行為を行ったときは、“両罰規定”として、「行為者」と共に法人も罰せられる仕組みになっています(同法第22条第2項)。

 

営業秘密の要件


今回、「はま寿司」の仕入れ原価などに関するデータが「営業秘密」に該当するのかが争われることになると予想されますが、営業秘密として法律による保護を受ける3要件は以下のとおりです。

1.秘密管理性
その情報に合法的かつ現実に接触することができる従業員等からみて、その情報が会社にとって秘密としたい情報であることが分かる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされていることをいいます。具体的には、以下により判断されます。

(1)その情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)
(2)アクセスした者が秘密であると認識できること(客観的認識可能性)
※社内の人間であれば誰でもアクセスできる状況下ではアクセス制限の要件が満たされないとされています。

2.有用性
生産、販売、研究開発に役立つなど、事業活動にとって客観的に見て有用なものであることをいいます。
こちらは、脱税情報や有害物質の垂れ流し情報などの公序良俗に反する内容の情報を、法律上の保護の範囲から除外することに主眼を置いた要件であり、それ以外の情報であれば有用性が認められることが多いとされています。直接ビジネスに活用されている情報に限らず、潜在的な価値がある場合も含みますので、施策の失敗に関する情報、長期的な未来の事業に活用できる情報も含むとされています。

3.非公知性
合理的な努力の範囲内で入手可能な刊行物には記載されていないなど、会社の管理下以外では一般に入手できないことをいいます。
また、公知情報の組合せであっても、その組合せの容易性やコストに鑑み非公知性が認められ得るといえます。ちなみに、同じ情報を保有している同業者がいても、業界で一般に知られていない場合には、非公知情報であると考えられます。

 

コメント


報道等によりますと、はま寿司側から持ち出した情報の閲覧に必要なパスワードは、かつての部下であった、元はま寿司経営企画部長から聞き出していたとされています。また、今回、持ち出された情報については、いずれも社内で閲覧できる人間が制限されているもので、捜査当局としては、不正競争防止法が規定する営業秘密に当たると判断したとのことです。

コロナ禍にあっても、国内回転すし市場は好調で、2021年度の国内回転すし市場は、10年前比で約1.6倍の7400億円超と規模を拡大させています(前年比でも8.3%増)。そんな中で、近年、回転寿司業界は、大手5社を中心に激しい競争を繰り広げています。

ビジネス上の競争を制するうえで、希少性の高い“情報”は重要なファクターになりますが、その入手方法を誤ると、役職員どころか、会社自体が処罰されてしまうリスクがあります。特に、競合他社の情報入手ルートとなりえる、転職入社した役職員に対しては、前職のどういった情報が営業秘密に該当するのかを法務コンプライアンス部門として、改めて、周知・指導する必要がありそうです。

 

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