東京地裁が家事代行兼介護ヘルパーの労災認めず、家事使用人と労災について
2022/10/03 労務法務, 労働法全般

はじめに
家事代行兼訪問介護ヘルパーとして派遣された女性が過労死したことにつき、国に労災を認めるよう求めた訴訟で29日、東京地裁は請求を棄却していたことがわかりました。家事代行分の業務時間を労働と認めなかったとのことです。今回は労災認定と適用除外について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、女性(当時68歳)は2013年8月、要介護高齢者向けの居宅介護支援サービスや家事代行サービスを展開する都内の企業に入社し、2015年5月から訪問介護ヘルパーの仕事を行っていたとされます。女性は5月20日~27日朝まで家政婦兼介護ヘルパーとして住み込みで寝たきりの認知症患者宅に勤務し、27日夜に私的に訪れたサウナで倒れ、搬送先病院で急性心筋梗塞のため亡くなったとのことです。渋谷労基署は女性は労基法に定める「家事使用人」に該当するため労災は適用除外となるとして労災を認めなかったとされます。女性の夫は国を相手取り労災認定を求め東京地裁に提訴しておりました。
労災とは
労働災害(労災)とは、労働者が労務に従事したことによって被った負傷、疾病、死亡などを言います。労災は業務災害と通勤災害に分けられ、業務上の負傷等を業務災害、通勤時の負傷等を通勤災害と言います。「業務上」の災害に当たるかについては、会社の管理下において(業務遂行性)、業務と傷病等との間に一定の因果関係が認められるかが必要とされております(業務起因性)。対象となる労働者は、正規、非正規、パート、アルバイト、日雇い問わず、賃金が支払われる者すべてが該当します。通勤災害の場合は、住所と就業場所、赴任先と帰省先、就業場所と他の就業場所の間に移動につき、合理的な経路方法で行われた際に発生した傷病である必要があるとされます。
労基法による適用除外
労基法116条2項によりますと、「同居の親族のみを使用する事業」および「家事使用人」については適用除外とされ、「労働者」に該当せず労災保険法の適用もないとされております。同居の親族のみを使用する事業とは、個人事業、会社組織問わず、経営者と同居する親族だけで事業を営んでいる場合を言うとされます。たとえ親族であっても同居せず別の家などで暮らしている場合は該当せず、通常通り労基法が適用されるとされます。このように親族関係にある者の労働関係については、通常の労働関係と異なり、国家による監督・規制という法の介入は不適当であると考えられるためこのように労働関係法令が適用除外となっているとのことです。労働安全衛生法の適用も除外されると言われております。
家事使用人の場合
厚生労働省の通達によりますと、「法人に雇われ、その役職員の家庭において、その家族の指揮命令の下で家事一般に従事している者は家事使用人である」とされます(昭和63年3月14日基発第150号)。また「家事使用人かどうかは従事する作業の種類や性質を勘案して労働者の実態を見て決定する」としております。いまいち判然としない基準ですが、家事使用人とは基本的に、旧来「お手伝いさん」と呼ばれていた家事手伝いを指すもので、会社に雇用されてはいるものの、その会社の役員の家庭において、その家族の命令により家事一般に従事するものを想定されておりました。このような家事使用人の場合は、雇用され指揮命令下で労働しているものの、通常の労働者と同様の規制は適切ではないと考えられておりました。
コメント
本件での争点は、女性が要介護者宅で行っていた住み込みでの家事業務と介護業務が会社の業務と言えるかという点でした。この点につき東京地裁は、家事業務に関しては派遣先の家族との間で別に雇用契約が結ばれており会社の業務には当たらず、「家事使用人」に該当するとして、家事業務部分については労基法は適用されないとしました。その上で介護業務は1日あたり4時間半にとどまるとして長時間労働にも当たらないとし請求を退けました。以上のように家庭派遣型の業務では労働関係法令が適用されない「家事使用人」に該当する場合があります。この規定は労基法が公布された昭和22年からの古い規定で現代の労働形態にはそぐわないと批判の声もあり削除すべきとも言われております。控訴審での判断が注目されます。派遣型ヘルパー等の事業を営む際にはこれらの点も注意して労務管理を行っていくことが重要と言えるでしょう。
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