島津メディカルシステムズ、X線撮影装置の修理で不正行為疑惑
2022/09/22   コンプライアンス, 刑事法

はじめに


2022年8月25日、京都市の医療機器メーカー大手、株式会社島津製作所が、同社の子会社である島津メディカルシステムズ株式会社の不正行為疑惑報道について発表を行いました。今回の発表は、医用機器の販売・保守などを手掛ける島津メディカルシステムズの社員が、病院のX線装置に関し故障を偽り修理を行い修理費約228万円を支払わせていた疑惑があるとの報道に対してのものとなります。発表において、島津製作所は、現在、事実関係を明らかにするため、外部専門家もまじえて調査を行っていること、事実関係が明らかになり次第しかるべき対応をとること等を表明すると共に、本件による誤診や医療事故の可能性はないこと、不適切行為の疑義は一部地域に限定されていること等を説明しています。本記事では、各社報道も踏まえ、今回の不正疑惑の詳細を解説いたします。
 

本件の経緯


今回、問題となった株式会社島津メディカルシステムズは、大阪市に本社を置く島津製作所の子会社で、島津製作所が製造及び輸入販売する医用機器の販売・修理・保守等を手掛ける会社です。

報道などによりますと、同社が2009年に熊本の病院に設置した「エックス線テレビシステム」に対し、熊本営業所の社員が、2017年9月に点検作業を行った際、X線管球にデジタルタイマーを仕掛け、一定の日時の到来と共にX線が噴射できないよう設定したとされています。
その後、病院側からX線が出なくなったとの連絡があったそうですが、それに対し、島津メディカルシステムズの社員は、「装置の不具合により部品の交換が必要である」として、修理費用約228万円を請求し、これが病院側より支払われたとのことです。島津メディカルシステムズの社員を名乗る匿名の告発文が病院に届いたことで、事態があかるみになりました。

告発文の中では、
・熊本県内の病院・診療所のX線装置に対し、デジタルタイマーを用いての不正が行われていること
・社内で、不正な作業の写真・動画が出回り発覚したこと
・発覚後、社内で隠蔽が行われたこと

などが記されていたとされています。

8月25日に島津製作所と島津メディカルシステムズの社員が、病院を訪れて直接謝罪し、事実関係の説明を行ったといいます。また、8月29日には、熊本県庁を訪れ、謝罪を行うと共に状況説明を行ったとのことです。

 

刑事事件化のおそれも


本件に関しては、事実関係次第で刑事事件化するおそれもあると言われています。個別の構成要件を満たすかは続報次第ではありますが、想定される罪状としては、以下が考えられます。

(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 
(電子計算機損壊等業務妨害)
第二百三十四条の二 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
 
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
 
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。


コメント


かつて、ソニーの技術力の高さに起因して、「製品の保証期間経過後すぐに故障が起こるよう製品寿命をコントロールして設計している」との噂が立ち、“ソニータイマー”なる造語が使用されてきました。こうした具体的な証拠に基づかない噂は、ソニーのブランドイメージを数十年にわたって毀損し、その払拭に苦悩して来たと言われています。

今回の不正行為疑惑を受け、インターネット上では、早くも“島津タイマー”などと揶揄する言葉も見られるようになりました。企業にとっては、顧客との継続的な信頼構築こそが利益の源泉となるため、他社製品への乗り換えリスクを伴う「意図的な故障を前提とした製品設計」を行うメリットは相対的に非常に小さく、企業の合理的判断として、こうした設計を行うことは現実的にはありえないとされて来ました。しかし、例えば、従業員個人がノルマへのプレッシャー等から、企業としての合理的判断から逸脱した不正行為を行うことは十分に想定されます。

不正行為疑惑の詳細については続報が待たれますが、ソニーが“ソニータイマー”と揶揄されることで、長期間ブランドイメージを毀損され続けたことを考えると、今後、島津製作所および島津メディカルシステムズが被る損害は膨大なものとなると予想されます。ましてや、今回は、医療機関での診療を阻害するもので、イメージの悪化は一層甚だしいものとなると考えられます。

今回の事例のように、自社の従業員のみならず、グループ会社の従業員の不正行為が、企業に対し長期的かつ大規模なダメージをもたらすケースがあります。グループ会社のコンプライアンス体制をいかに整備するか、どこまで親会社として影響力を及ぼすのか等、今一度、整理しておく必要がありそうです。

 

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