金融庁が岡安商事株式会社に対する行政処分について公表
2022/07/04   金融法務, コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに


2022年6月24日、近畿財務局は岡安商事株式会社に対する行政処分について文書を公表しました。近畿財務局によると、 岡安商事は自己資本規制比率の低下を回避するために意図的な取引先等の迂回により関係会社への貸付を行っていたとされています。こうした事実を受け、近畿財務局は岡安商事に対し、令和4年7月8日から令和4年8月7日までの期間、金融商品取引業のすべての業務を停止する行政処分を下したと発表しました。本記事では、詳しい行政処分の内容や根拠法令を確認していきましょう。

 

事実の確認


岡安商事株式会社は、資本金17億3,000万円、本店を大阪市中央区に置く商品先物取引業者です。主に、商品先物取引として、金限日取引やガソリン、灯油、とうもろこし、一般大豆などを取り扱っています。今回、岡安商事については、

①自己資本規制比率の低下を回避を目的として、意図的に取引先等を迂回させて関係会社への貸付を行っていたこと
②資金の一部を劣後特約付借入の原資に充当させ、平成22年8月30日から令和4年2月28日まで、自己資本規制比率を本来の数値よりも向上させ、実態と異なる自己資本規制比率を算出した上で当局に提出していたこと
③法律で定める自己資本規制比率を記載した書面に実態と異なる自己資本規制比率を記載して作成し、公衆の縦覧に供していたこと
④当該期間の一部において、自己資本規制比率が金商法第46条の6第2項に定める120%を下回っていたこと

などの事実が確認されています。これらの事実に対し、近畿財務局は、「法令に抵触しない形式にすれば良いと安易に考えるなど、法令遵守に関する認識が欠如していることが認められる」として、金商法第51条(金融商品取引業者に対する業務改善命令)の規定に基づき、行政処分を行っています。

金融商品取引法 | e-Gov法令検索

 

金商法上の自己資本規制比率に関する規制


金商法においては、「自己資本規制比率」を、金融商品取引業者としての財務の健全性を測る重要な指標と位置づけ、厳格に規制しています。具体的には、自己資本規制比率を算出したうえで、金商法第46条の3第1項に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令の第172条第1項に定める事業報告書を作成し、当局に提出することになっています。

今回、岡安商事は実態と異なる自己資本規制比率を、金商法第46条の4に基づく金商業府令第174条に定める説明書類、金商法第46条の6第3項に定める書面の両書類に反映していました。これにより、多くの人々に虚偽の自己資本規制比率を公表していたことになります。さらに、金商法第46条の6第1項に基づいた金商業府令第179条第1項第1号では、「自己資本規制比率が140%を下回った場合」の届出が必要とされていますが、これも行われていませんでした。

 

業務改善命令の内容


近畿財務局による業務改善命令の内容としては、

①今回の処分を踏まえた本件に係る経営陣を含む責任の所在を明確化すること
②法令等遵守に取り組む経営姿勢を刷新し、全社的な法令等遵守意識を醸成し、経営管理態勢、内部管理態勢及び内部監査態勢の充実及び強化を図ること
③業務停止期間中に全役職員に対し「法令等遵守の徹底」に係る研修を実施すること
④全ての顧客に対して行政処分の内容を説明し、適切な対応を行うこと
⑤これらの具体的な対応・実施状況を1か月以内(以降は3か月経過毎)に書面により報告すること

の5つになります。

 

コメント


金融商品取引法をはじめとする金融法令では、自己資本率の算出方法や基準、算出期間、自己資本率が低下した場合の対応や書類、報告方法などについて、詳細な内容が定められています。今回の業務改善命令は当局の指摘通り、場当たり的な対応で形式上法令に抵触しなければそれで良いという意識が垣間見え、今後の経営陣の意識改革が求められるかたちとなりました。今回のような業務停止命令命令は、停止期間中に発生する機会損失に留まらず、企業ブランドの毀損、社内外からの信頼の失墜など、中長期的にも小さくないダメージを会社にもたらします。社内でコンプライアンス意識が希薄となることの恐ろしさを再認識させられる事例となりました。
 

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