ノジマが労働審判で懲戒解雇を撤回、懲戒解雇の要件について
2022/05/09 労務法務, 労働法全般
はじめに
家電量販店大手「ノジマ」(横浜市)が元従業員の男性(27)の懲戒解雇を撤回する内容の労働審判が先月、確定していたことがわかりました。会社都合による合意退職となったとのことです。今回は懲戒解雇とその要件について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、元従業員の男性は、2017年に同社に就職し、19年にエリアマネジャーに昇格、その後21年から携帯電話部門をまとめる地区統括となったとされます。しかし過去に自社で携帯端末を購入した際にポイント増加キャンペーンの条件となっていた端末の提出をせず、不正にポイントを受け取った上、父親名義の端末購入の際に来店していない父親の署名を男性自身が書いて偽造したとして、21年10月に懲戒解雇されたとのことです。男性は、このような事実はなく、また同様に端末を提出していなかった従業員が他にもいるにもかかわらず自分だけを狙い撃ちして最も思い処分をしており不当であるとして労働審判を申し立てておりました。
懲戒解雇とは
解雇には普通解雇と懲戒解雇がありますが、懲戒解雇とは会社の懲戒処分の一種として行われる解雇を言います。会社には企業秩序を乱す行為に対して懲戒する権利が認められているとされ、その際の処分を懲戒処分と言います。懲戒処分は軽いものから順に、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。このように懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重く、労働者にとって深刻な処分です。なお諭旨解雇とは、懲戒解雇に相当する非違行為があったものの、あえて自主的な退職を促し自己都合退職という形を取るもので、懲戒解雇より穏当な処分と言えます。これらいずれの懲戒処分も予め就業規則に定めておく必要があります。
懲戒解雇の要件
労働契約法15条によりますと、懲戒は「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は懲戒権濫用として無効となります。そして解雇も「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は同様に無効となります(16条)。これはかつての最高裁判例(最判昭和58年9月16日)で確立した懲戒権濫用法理が条文化されたものと言われております。そして懲戒処分は上記のようにあらかじめ就業規則でその種類と事項を定めておく必要があるとされます(最判平成15年10月10日)。つまりどのような場合にどのような懲戒処分がなされるかを定めた上で、適正・公平な手続きのもとに処分が下される必要があります。
懲戒解雇が認められた裁判例
懲戒解雇が認められた例としては、半年間で24回の無断遅刻と14回の無断欠勤を繰り返し、会社からの注意やけん責でも改善しなかった例(横浜地裁昭和57年2月25日)、観光バスの運転手がバスガイドにわいせつ行為を行った例(福岡地裁平成9年2月5日)、領収書の金額を水増しした例(大阪地裁平成10年1月28日)、大学中退を秘匿して高卒と経歴詐称した例(最判平成3年9月19日)などが挙げられます。一方でこれらと同様の事案でも、企業秩序が乱されたとまでは言えない場合や、会社からの指導や注意などもなくいきなり懲戒解雇とした場合、非違行為の動機としては悪質とまでは言えない場合、非違行為は認められうとしても懲戒解雇は重すぎるとされた場合などでは懲戒解雇は無効とされております(東京地裁平成20年2月29日等)。
コメント
本件でノジマは元従業員が自社での制度を利用した携帯端末購入の際に、条件とされていた端末の提出が行われず、不正にポイントを受領して父親名義の著名を偽造し端末を購入したとして懲戒解雇としたとされます。横浜地裁の労働審判ではこの懲戒解雇が撤回され会社都合の退職となったとのことです。詳細は不明ですが、適正な弁明手続きや、公正な調査が無く、また行為の態様に沿った合理的で相当な処分ではなかったのではないかと考えられます。以上のように懲戒解雇は労働者にとって非常に重い処分であり、その後の生活にも深刻な影響を及ぼすものであることからその要件は厳格と言えます。懲戒事由が存在する場合は慎重な調査と聞き取り、そして懲戒解雇とすることが合理的で相当かを慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。
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