「サプライチェーンにおける人権尊重」の動向
2022/05/24   コンプライアンス

はじめに


経済産業省は2022年4月27日、第3回「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」を開催し、同日資料を公表しました。本検討会は、サプライチェーンにおいて問題となることの多い人権問題に対処することなどを目的とした委員会で、今回を合わせて計3回開催されています。今回は、将来的な「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」策定に向けて、議論のたたき台としてガイドライン骨子案が公表されました。
ガイドライン骨子案は国連指導原則など国際的なスタンダードを踏まえた上で、企業に求められる人権尊重の取り組みについて、日本の現状に即して具体的かつわかりやすく解説し、取組を促進することを目的としています。本ガイドラインは、法的拘束力を有するものではありませんが、企業の規模・業種等にかかわらず、日本国内でビジネスを行う全ての企業を対象としています。今回は、サプライチェーンにおける人権尊重の動向をご紹介します。

 

サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン骨子案


本ガイドラインの総論では、企業が取り組むべき施策として、(1)人権方針の策定、(2)人権デュー・ディリジェンスの実施、(3)自社が人権への悪影響を助長している場合の救済など、大きく3つの施策を掲げています。

具体的には、(1)人権尊重に関し経営陣が考えるミニマムスタンダード(最低基準)を企業の内外に向けて明確に示すこと、(2)人権への悪影響を特定したうえで、当該悪影響を防止・軽減し、対処指針を説明すること、(3)人権への悪影響について救済を提供する手続を整備し、人権への悪影響を弱め又は修復するような実質的な成果を残すこととしています。

 

参考:繊維版「責任ある企業行動ガイドライン」の策定について


日本繊維産業連盟では、繊維業界に属する企業を対象に、サプライチェーンにおける人権尊重のための独自ガイドライン策定に向けて動いています。これは、、EU で人権デューデリジェンスの義務化・法制化が既定路線となっており、今後海外展開を進めるうえで、企業の社会的責任を果たすことの重要性が増していること、特に日本の繊維産業において外国人技能実習生への違反行為多発を理由に、人権上の問題が大きい産業として外国から指摘を受けていることなどが背景としてあります。
この、繊維版「責任ある企業行動ガイドライン」では、現状、項目案として、主に以下のようなものを挙げています。

■取引先との関係における確認項目
・取引先とエンゲージメントする際の確認項目
・特に海外取引先において具体的に問題になり得る個別の課題

■人権デューデリジェンスの全体像(手続面)
1.コミットメント(ステップ1)
2.人権リスクの特定(ステップ2)
3.特定したリスクの防止・軽減に向けた行動(ステップ3)
4.影響を受けた人の救済(ステップ4)
5.効果の監視(ステップ5)
6.一連の取組みの外部への報告・公表
7.救済制度(相談窓口の設置又は第三者の窓口の紹介)

経済産業省が策定を検討しているガイドライン同様、より具体的な内容の確定が待たれますが、上記は、今後、社内で必要となる取り組みを予想するうえでの参考になると思います。

 

コメント


経済産業省において策定を検討している本ガイドラインはサプライチェーンで発生するビジネスにおける人権侵害を防止・対処するためのガイドラインであり、法的拘束力はないものの、すべての企業が遵守すべきものとして位置づけられています。また、ガイドラインには、策定に併せて企業の実務担当者向けに有意義と考えられる各種資料を経済産業省が作成し、公開する予定である旨書かれており、今後企業の法務担当者が押さえておくべき内容になるでしょう。
ガイドライン骨子案の中で、人権尊重に向けた取り組みは、企業がその社会的責任を果たすという観点以外にも、「経営における不確実性の抑制や、企業価値の向上に繋がる」旨記載されています。その意味で、「サプライチェーンにおける人権尊重への取り組み」は、法務の立場から、企業価値の向上に貢献できる、非常にやりがいのある分野と言えます。また、サプライチェーン全体における人権・CSRへの配慮の必要性の高まりは、世界的なトレンドとなっています。ぜひ、今後の動きを注視してみてください。
 

【関連リンク】
ガイドライン骨子案
繊維版「責任ある企業行動ガイドライン」の策定について

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