職場パワハラによる自殺、札幌トヨタが謝罪し和解へ
2022/03/25 労務法務, 労働法全般

はじめに
自動車販売会社「札幌トヨタ自動車」の整備士の男性社員が2017年に自殺した事件で、男性社員の遺族がパワーハラスメントが原因だとして同社約4300万円の損害賠償を求め訴訟を起こしていましたが、同社は3月17日にパワハラが自殺の原因だったことを認めて和解が成立しました。今回は度重なるパワハラ問題について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、同社に2016年4月に入社した男性社員は配属された室蘭支店にて、職場で先輩や上司から「仕事ができないなら早く辞めればいい」「死ねばいいのに」などの罵倒を浴びせられていたそうです。男性社員は9月には出社できないほど追い込まれており、適応障害と診断を受けました。その後職場復帰を果たしましたが、再び出勤できなくなり、二度の失踪を経て、2017年7月に自ら命を絶ってしまうに至りました。遺族はパワハラが自殺の原因だったとして同社を訴え、損害賠償の請求を行いました。2021年1月の一審・札幌地裁判決では、男性社員がパワハラが原因で適応障害となったと認定し、同社に対して44万円の支払いを命じています。しかし自殺とパワハラの因果関係は認められませんでした。遺族と同社はこの判決内容を不服として、双方ともに控訴していました。控訴審では、裁判所がパワハラと自殺の因果関係を認める意向を示し、同社が和解に応じました。原告側弁護士によると、和解条項には和解金額のほか、同社でハラスメント研修を充実させることなどが盛り込まれたそうです。
相次ぐパワハラでの自殺
今回の事件同様に、職場でのパワハラに起因するとされる自殺があとを絶ちません。ここ最近でも「大阪メトロ」や「佐川急便」にてパワハラを受けて自殺する事件が起こっています。各企業はパワハラへの対策を行なっているはずですが、なぜ未然に防ぐことができないのでしょうか。パワハラ被害者は自分の能力不足や至らなさが原因だと思い込んでしまい、周囲に助けを求めづらいことも自殺の原因の一つになっていると言われています。また職場でハラスメントが常態化しており感覚がマヒしているケースも見受けられます。厚生労働省によると、そもそもパワハラとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものと定義されています。企業が取れる対策として、まず社員へパワハラとはどういったものなのかを周知し、無意識にパワハラを行わないよう注意するのはもちろんのこと、万が一被害者が出てしまった場合にも「自分はパワハラを受けている」と認識できるようにすることが重要と言えます。
コメント
2020年6月1日より大企業を対象に「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が施行され、2022年4月からは中小企業にも施行されます。パワハラ防止法に罰則はありませんが、対策義務を怠り何らかの損害が生じた場合にはパワハラの加害者のみならず、会社側にも責任が生じる可能性があります。またパワハラが発覚すれば、レピュテーションの低下による顧客離れ、新たな人員採用の難化など、大きなダメージにつながります。
なお、厚生労働省の調査によると、過去3年間に実際にパワハラに該当する事案のあった企業は回答企業全体の36.3%にのぼり、約3社に1社の割合でパワハラが発生していることになります。企業としてはまず、「パワハラはどこでも発生しうる身近な問題である」ことを認識し、パワハラを未然に防ぐ組織作りや社内外の相談窓口の設置などの対応が求められています。これ以上悲劇を繰り返さないためにも、全ての企業は今一度自社の状況を見直し、適切なハラスメント対策を徹底しましょう。
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