オンライン旅行代理店大手3社による不公正取引問題から紐解く「確約手続き」
2022/03/24 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
2019年に、楽天トラベル・エクスペディア・ブッキングドットコムのオンライン旅行代理店3社が、それぞれ最安値の宿泊料金を掲載するよう求めた契約を宿泊施設と結んでいたとして、独禁法違反の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。これを受けて、楽天トラベルは同年11月にいち早く確約手続きを行い、行政処分を免除されていました。
今回、オランダにあるブッキングドットコムの運営会社が確約手続きの一環として再発防止計画をまとめ、公正取引委員会はこれを認めました。本記事では、独占禁止法上の「確約手続き」について見ていきます。
問題となった契約条項
公正取引委員会によると、楽天トラベル・エクスペディア・ブッキングドットコムの3社は、国内のホテルや旅館に対して、各々の自社サイトや他の予約サイトと同価格またはそれよりも安い価格を掲載するよう強いる条項を設けていた疑いが持たれていました。いわゆる、最恵国待遇条項です。
2019年当時は、訪日外国人観光客の増加などを追い風に大手3社のシェアが伸びていた時期で、それによる価格の高止まりといった影響があったのではと懸念されていました。
今回、オランダにあるブッキングドットコムの運営会社は改善計画を公正取引委員会へ提出し、これが認められた形です。これは行政処分の「確約手続」に基づくものです。
確約手続き
確約手続とは、比較的軽微な独占禁止法違反の嫌疑に対して、会社が自発的に改善計画を策定し改善を確約し、公正取引委員会からその見返りとして排除措置命令や課徴金納付命令の免除を受ける手続きになります。
競争上の問題の早期是正、公正取引委員会と事業者が協調的に問題解決を行う領域の拡大を主な目的としています。
確約手続による最大のメリットは、公正取引委員会からの「独占禁止法違反」の認定を回避できる点です。もしも公正取引委員会から独占禁止法違反と認定されてしまうと、風評被害などによって企業イメージのダウン、ビジネス上の不利益などを受けることになります。
自主申告を行うことにより、公正取引委員会からの独占禁止法違反であるという認定を回避することが出来れば、こうした風評被害も合わせて回避することができるのです。もちろん、風評被害だけではなく排除措置命令、課徴金納付命令を受けずに済むことも忘れてはいけません。
仮に公正取引委員会から排除措置命令を受けてしまうと、対応するために人的、金銭的コストがかかります。命令の対応にかかってしまうコストを、自主的に改善計画を策定することによって、提言することができるため、事件の早期解決につながるとも言われています。
確約手続の流れは以下の通りです。
①公正取引委員会の調査(立ち入り検査など)
②公正取引委員より、嫌疑の概要や適用法令などが会社に通知
③会社は改善契約を策定し、公正取引委員会に対して確約手続を申請
④公正取引委員会は確約計画を認定して、会社に対する調査を終了
今回、ブッキングドットコムが提出した確約計画によると、ホテルや旅館と他のサイトよりも高くならない条件の契約を取りやめること、社内と日本法人の役員や従業員に徹底周知させることなどが盛り込まれています。
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コメント
上述のように、楽天、そして今回のブッキングドットコムの2社は、既に確約計画を認定されましたが、エクスペディアだけは現在も調査中となっています。
今回取り上げた「確約手続き」は、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の発効とともに開始された比較的新しい制度です。実際、確約手続きが認められた事例は楽天が初めてでした。
本制度の適用は、違反の認定とならず、行政処分が免除されるなど、企業にとってのメリットは計り知れません。企業の法務担当者としては、自社が独占禁止法違反に問われた際に、速やかに確約手続きを取れるよう、事前の準備を行っておくことが望ましいと言えます。
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