グローリー子会社社員が21億円横領/業務上横領罪について
2022/03/23 コンプライアンス, 危機管理, 刑事法
はじめに
券売機や両替機を製造する大手メーカーの「グローリー」は14日、子会社の「グローリーサービス」の元社員が13年間で約21億円を横領していたことがわかったと公表しました。11日付でこの社員を懲戒解雇し、刑事告訴を検討しているとしています。今回は業務上横領罪について見ていきます。
事件の概要
報道によると、元社員が横領を始めたのは2009年からで、2020年に入り横領額が急増したと言います。この背景には親会社であるグローリーが導入した「キャッシュ・マネジメント・システム」にありました。キャッシュ・マネジメント・システムはグループ企業の資金決済を親会社に一元化するというもので、子会社であるグローリーサービスは4・5億円を限度にいつでも資金融通が可能になりました。また2020年7月にはコロナ禍での業績不振を理由に4・5億円の枠とは別に、必要額を貸し付ける特例措置を導入しています。グローリーサービスの元社員は経理を担当しており、この制度を悪用して子会社の預金を自身の口座へインターネットバンキングで計352回振り込むなどし、発覚を免れるため残高証明書や帳簿を改ざんするなどして隠ぺいしたと言います。2020年にグローリーサービスの借入金が不自然に急増したことから横領が発覚しました。この元社員は横領した金を主に馬券購入に当てていたとされています。元社員は横領を認めており、すでに約7000万円を返還したとのことです。
業務上横領罪とは
業務上横領とは、業務を行う上で会社から預かっている物を無断で使用することです。業務上横領に対しては刑法第253条に規定があり、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。」としています。業務上横領罪の「業務」「占有」「他人の物」「横領」の4つの構成要件があります。「業務」とは委託を受けて物を管理すること、「占有」は物を自分の判断で利用・処分できる状態であること、「他人の物」とはその名の通り他者の所有物であること、「横領」とは委託された任務に背いて勝手に物を利用・処分することとされています。今回の事件では全て当てはまっていると考えられます。
横領は金額以上の損害も
業務上横領の認知件数は近年1000件程度で推移しており、減少する気配を見せていません。横領・不正が起きた場合には会社は民事事件として損害賠償を求めることができますが、特に今回のように多額の横領が発覚した場合には全額の回収は非常に困難であると言えます。また経費を装った横領だった場合、損金不算入となり追加徴税が発生するケースもあります。このように会社としては横領された額以上のダメージを受けることになりかねませんので、横領は不正を暴く以上に未然に防ぐ仕組み作りが重要であると言えます。チェック体制を今一度見直すことや、経理担当者をローテーションするなどの対策を講じる必要があるでしょう。
コメント
今回の事件では子会社のグローリーサービスは主な経理業務をこの元社員に1人で任せていたことから発覚が遅れました。親会社のグローリーはこの事件を受けて株主や関係者にお詫びするとともに、社内調査委員会による調査結果を踏まえて、実効性のある再発防止策を実行していくとしています。しかし巨額横領の余波は大きく、連結決算の再訂正など混乱が続いています。横領事件はなかなか後を絶たず、今回のような巨額の横領以外にも特に中小企業での横領が頻発しています。
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