株式会社花畑牧場とベトナム人従業員との間で労使トラブル
2022/03/18   労務法務, 労働法全般

はじめに


生キャラメルで知られる北海道の株式会社花畑牧場とベトナム人従業員との間で労使トラブルが発生し、会社側はベトナム人従業員40人を3月で雇い止めることを通告し、また「不当な争議行為」を行なったとしてリーダー格のベトナム人従業員4人に計200万円の損害賠償を請求しました。

さらに、同社との交渉時の音声データを悪意ある編集と共にインターネット上に流出させたとしてベトナム人従業員3人を名誉棄損罪及び信用棄損罪に基づき刑事告訴しています。

 

事案の概要


報道などによりますと、ベトナム人従業員は従前、寮の水道光熱費として毎月7000円を負担していましたが、会社側はこれを一方的に順次値上げ。2022年1月には当初の倍以上となる15000円まで値上げを行い、給料から天引きしていました。

ベトナム人従業員側は値上げに抗議し、同社を経営する田中義剛社長と話し合いを行ったものの解決せず、事前通告した上で事実上のストライキを実行したといいます。同日夜に会社側は水道光熱費を元の7000円に戻すことを通知しました。

しかしその後会社側は実質的な雇い止めを通知する「契約期間満了通知書」を3月15日付で通知し、この事実上のストライキを主導した4人に各50万円の損害賠償を請求したと言います。

ベトナム人従業員は雇い止めや損害賠償請求は不当だとして労働組合を結成し、会社側に雇い止めの撤回と団体交渉に応じるよう申し入れました。今回の事件で争点となっているのは「本件の事実上のストライキは正当であったか」という点です。

 

ストライキの正当性


ストライキは労働条件などの改善を求めて労働者が集団で業務を放棄することで、会社と同等の立場で交渉を行う手段です。
ストライキは「団体行動権」として労働者の権利であると認められており、ストライキによって会社に損害が生じても、刑事罰を科すことや民事上の損害賠償を請求することはできないとされています。

一方で憲法・労働組合法で認められた正当性を有する行為でなければ、こうした法的保護を受けられないことになります。ここでの正当性とは「労働条件交渉に関するものであること」「手続の正当性」「態様の相当性」「労働組合の総意」などが問われます。

今回の事件では社員寮の光熱費の値上げに対する交渉が発端であり、同費用が給料から差し引かれている点に鑑みても、労働条件の交渉に関するものと考えられます。またベトナム人従業員が行ったのは労働力の不提供に留まるため、態様の相当性も認められると言えます。一方で問題となるのは「手続の正当性」と「労働組合の総意」という点です。

実際、会社側は、「会社に労働組合はなく、事前の交渉申し入れもなかった」として、ベトナム人従業員側の行為は法的保護の対象となるストライキには該当しない(「就労拒否と職場放棄」「不当な争議行動」)と主張しています。

労働組合ではない労働者集団(いわゆる、争議団)が行う事実上のストライキが、法的保護を受けるか否かについては、諸説ありますが、「労働組合でなくても、労働者の経済的地位の向上を主目的として結成された争議団による争議行為であれば、勤労者の団結権を規定した憲法28条を根拠に法的保護を受ける」とする説も有力です。

仮に今回の事実上のストライキが法的保護の対象と判断された場合には、会社がベトナム人従業員に対して行った雇い止めや損害賠償請求は、労働組合法第7条が禁じる不当労働行為にあたる可能性があります。

 

コメント


今回の事件では3月14日より団体交渉が行われていますが、未だ解決には至っていません。現状、ストライキが正当であったかどうかが争点となっていますが、そもそも会社側がベトナム人従業員に対して光熱費値上げを事前に説明し、理解を得ていればこのような事態には陥らなかったといえます。

会社側は、ベトナム人従業員の日常生活における相談・苦情への対応については、特定技能外国人材の受け入れをサポートする登録支援機関、「FUN To FUN株式会社」に業務委託しており、今回のトラブルの一因は、FUN To FUN社の報告懈怠にあると主張しています。花畑牧場に限らず、外国人労働者の受入実績の少ない企業では、こうした登録支援機関を活用し、外国人労働者とのコミュニケーションを委託するケースは珍しくありません。

しかし、今回のように、当事者同士の直接のコミュニケーションが十分に行われないデメリットもあります。改めて、外国人労働者を雇用する際のコミュニケーション面での難しさが浮き彫りとなった形です。

近年、企業と外国人労働者の間で起きるトラブルが問題となっています。今後これまで以上に外国人労働者が増えることが予想される中で、今一度自社のダイバーシティ経営と労務管理の合法性について見直すことが重要と言えるでしょう。

 

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