大型家電量販店の労働協約、32年ぶりに同業他社に適用
2022/02/25 労務法務, 労働法全般

はじめに
茨城県内では、2022年4月から、大型家電量販店で働く正社員の年間休日数が111日以上とされます。この労働条件の変更は、当時のヤマダ電機を含む大手3社の労使が結んだ労働協約に基づくもので、今後も日本国内で同様の労使関係見直しが行われる可能性があります。今回は、本事例をもとに、どのように企業横断型の労使関係見直しが行われたのかを見ていきましょう。
労働協約とは
そもそも労働協約とは、労働組合と使用者の間で、労働の対価としての賃金、休日日数、労働時間などの各種労働条件について合意をする取り決めのことを指します。労働協約の有効期間の上限は3年とされており、内容は書面化して当事者同士で署名・押印をします。よく混同されるものに「労使協定」がありますが、労使協定は使用者と労働者の過半数を代表する代表者が取り交わす就業規則の特則を指します。労働協約は就業規則より優先される効果を持ちますが、地域拡張が行われなければ特定の労組加入者にしか適用されません。今回の大型家電量販店の事例では、この地域拡張が適用され、対象エリアの他企業でも労使関係の見直しが行われたことになります。
見直しは32年ぶり
労働協約の地域的拡張は1946年に労働組合法施行された当初から認められている制度であり、現行法では18条にその旨規定されています。労働条件の地域的拡張がおこなわれるためには、ある地域における同種の労働者の大部分がほかの所属企業と同じひとつの労働協約を締結する必要があります。つまり、労使に関する契約が企業の枠を超えて結ばれていることが前提となるのです。これらの条件が整っている場合、知事や厚労相に労使協約に関する地域的拡張を申し立てる必要があります。知事・厚労相の決定が下れば、同一エリアに属する同業他社にも協定内容が適用され、所属する従業員の労働条件も変わることになります。日経新聞によれば、過去の申し立て例は26件であり、81年~92年に愛知県尾西地域における羊毛染色業125社の休日が年86日以上とされて以来、実に32年ぶりに適用された制度だとされています。
今回行われた見直しの内容
家電量販業の平均休日数は年110.8日となっており、平均休日数が約120日の主要企業と比べて労働条件で見劣りするかたちとなっています。実際、家電量販店は多くの従業員が必要にも関わらず、競争が激しく十分な休日が用意できない問題点が指摘されています。この現状を課題と考えた3社・3労組は、2020年4月に年間休日を111日以上とする労働協約を締結した後、厚生労働省に地域的拡張の申し立てを行いました。また、休日を111日未満とする場合、休日の不足分に35%を上乗せした休日割増賃金を支払う規定も設けています。2021年9月、厚労相は地域的拡張を認め、2022年4月からの適用とすることを決定しています。
コメント
日本では32年ぶりとなった労働協約の地域的拡張ですが、ヨーロッパでは一般的に行われるているところもあります。例えばフランスでは、産業別労組の組織率は8%に過ぎないにも関わらず、労働協約が適用される率は98%にのぼっています。日本の産業別労組の組織率は約17%であることを考えると、適用率が重要であることがわかります。また、IGメタル等、産業別労組の組織率が約17%程度のドイツでも、労働協約が適用される労働者の割合は2020年の旧独西側地域で45%と高い割合になっています。。日本国内の雇用環境が欧米的な「ジョブ型」雇用に変化する中、今回のような適用例が増えれば企業を横断する労使関係の見直しが実現する可能性も考えられます。
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