龍角散、解雇無効で6千万円、不当解雇の解決金について
2022/02/15 労務法務, 労働法全般
はじめに
製薬会社「龍角散」(千代田区)の元法務担当部長の女性がセクハラ調査をしていたことにより解雇されたとして、解雇無効の確認と未払い賃金分の賠償などを求めていた訴訟で昨年12月、和解が成立していたことがわかりました。解決金は6千万円とのことです。今回は不当解雇にともなう解決金について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、同社の元法務部長の女性は2018年12月、社内の忘年会で藤井隆太社長が女性従業員に抱きつくなどしてセクハラ行為があったとして調査していたとされます。女性は忘年会後にセクハラがあったと聞き、従業員にヒヤリングを行うなど調査を行い、セクハラについて第三者に相談できる窓口を設置してほしい旨の意向を示していたとのことです。しかしこれに対して女性は社長室に呼び出され、セクハラは捏造だと指摘され自宅待機を命じられ、その後解雇されたとされます。女性は解雇権の濫用であるとして同社を相手取り東京地裁に提訴しておりました。
解雇と解雇権濫用
労働契約法16条によりますと、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされております。解雇には普通解雇と懲戒解雇がありますが、いずれにしても自社で雇用している従業員は簡単には解雇できないということです。客観的に合理的な理由とは、労働者の労働能力の欠如や喪失など労務提供が不能となった場合、労働者の企業秩序に違反する行為があった場合、経営難になった場合などの整理解雇などが具体例と言われております。企業秩序に違反した場合は通常は就業規則などに定められ、懲戒解雇の対象となることが多いと言えますが、普通解雇がなされる場合もあります。またこの解雇権濫用の法理は非正規雇用など有期労働契約にも適用されており、一定の場合には雇止めにも合理性や社会通念上の相当性が求められております(19条)。
不当解雇と解決金
解雇が無効とされた場合、会社側は従業員に賠償を支払う必要があります。中身は未払いの賃金相当分や慰謝料などですが、解決金が支払われる場合があります。解雇が無効であることから、解雇された日から支払われていない分の賃金の支払いが必要となるのは当然ですが、解雇の相当性が低い場合は慰謝料の支払いが命じられることもあります。また解雇や未払い賃金の支払いなどについて労働審判で争われている場合は、退職することを前提として、次の就職までの費用などといった意味合いの解決金も含められることがあります。この解決金は不法行為の賠償や不当利得といった性質のものではなく、あくまでも会社と従業員との合意によって支払われるものです。これもやはり解雇の相当性の強さや再就職までにかかる期間の長さなどが考慮されると言われております。
解決金の相場
解決金は上記のように解雇の合理性や相当性の有無、再就職までの期間などが考慮されますが、会社や従業員双方の退職への意思も大きく左右するといわれております。従業員側の会社に残る意思が強い反面、会社側の退職させたい意思が強い場合は解決金が高く提示される傾向が強いということです。労働政策研究報告書によりますと、労働審判での解決金は50万円~200万円が最も多いとされております。だいたい賃金の3ヶ月分~6ヶ月分程度が相場とされます。統計でも全体のうち半数以上はこの範囲と言えます。解雇の合理性が低く、従業員の会社に残る意思が強い場合は1年分ないしそれ以上の解決金が支払われている例もあり、2000万円を超える例も年間に数件報告されております。
コメント
本件では龍角散の忘年会での社長のセクハラ行為を調査していた元法務部長が、そのことを理由に解雇されたとされます。解雇の合理性や社会通念上の相当性は無く、解雇権濫用と言える事例です。このような場合は解決金も給与の1年分を超えるなど高額になる場合が多いと言えますが、本件では6千万円と高額な解決金となっております。原告側は定年までの給与補償と考えて和解に応じたとしております。以上のように解雇が無効とされた場合は、賃金相当分や慰謝料の他に、退職を前提とする場合は解決金が支払われることが多いと言えます。通常は給与3~6ヶ月分が多いとされますが、あくまでも当事者間の合意で決まることから明確な基準は無く、本件のように高額なものとなる例も見られます。解雇の際には合理性や相当性だけでなく、それらが認められなかった場合の解決金についても検討しておくことが重要と言えるでしょう。
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