東芝大株主が分割案に特別決議を要求、株主総会決議について
2022/01/20 商事法務, 総会対応, 会社法

はじめに
米資産運用会社ファラロン・キャピタル・マネジメントは18日、東芝が計画している会社3分割について、臨時株主総会で特別決議を経るべきとの書簡を発表しました。株主の信頼を得た上で進めるべきとのことです。今回は会社法の株主総会決議について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、現在東芝は会社を3つの独立した会社として分割する、いわゆる事業スピンオフを行い「インフラサービスCo.」「デバイスCo.」「東芝」に分割する方針とされます。同社は3月末までに臨時株主総会を開催し、この3分割案への株主の意向を確認するとしておりますが、同社第3位株主のファラロンが、この株主総会で普通決議による承認ではなく、特別決議による承認を得るべきと指摘しているとのことです。経営陣と株主の信頼の欠如が東芝の問題の核心であり、さらなる関係の悪化を避けるためにそのような措置を取るべきと指摘しております。開催時期、議案の詳細などはまだ明らかとなっておりません。
株主総会決議
会社法では株主総会の決議について、普通決議、特別決議、特殊決議、特別特殊決議の4種類を規定しております(会社法309条各項)。普通決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定足数)が出席し、その過半数の賛成で可決となります。特別決議は出席株主の3分の2以上の賛成が求められます。特殊決議には定足数は無く、議決権を行使することができる株主の頭数で半数以上かつ議決権の3分の2以上の賛成となります。特別特殊決議は総株主の半数以上かつ総株主の議決権の4分の3以上となっております。決議要件が段階的に厳しくなっていると言えます。
特別決議、特殊決議を要する場合
会社法で特別決議が必要となるのは、第三者割当増資における有利発行や、合併、会社分割、事業譲渡、株式交換などの組織再編の承認、定款変更などが典型例と言えます(309条2項)。監査役の解任決議も特別決議を要します。特殊決議が必要な場合としては定款変更により株式に譲渡制限を設ける場合、合併や株式交換、株式移転などで公開会社である消滅会社等に対価として譲渡制限株式が交付される場合などが挙げられます(同3項)。これまで自由に株式が譲渡できていた株主がそれを制限されることとなる場合と言えます。そしてさらに決議要件が厳格な特別特殊決議を要する場合とは、非公開会社において剰余金配当や議決権の扱いなど株主平等原則が適用される事項について、あえて株主ごとに差異を設ける場合とされます(同4項、109条2項)。なお特例有限会社における特別決議もこの特別特殊決議と同様の要件となっております。
定足数排除条項
株主総会の普通決議と特別決議には定足数が設けられておりますが、定款で定めることによってこれを排除することができます(309条1項、2項カッコ書き)。具体的には「株主総会の決議は、法令または定款に別段の定めがある場合を除き、出席した株主の議決権の過半数で行う。」といった定款規定です。これにより出席株主の数にかかわらず決議を採ることができます。ただし特別決議に関しては完全に排除してしまうことができず、3分の1までに減らすことができるに留まっております。また普通決議の場合も、取締役などの役員の選任または解任決議については、特別決議と同様に定足数を3分の1未満にすることができないとされております(341条)。なお特別決議と特殊決議に関しては、多数決要件である3分の2以上または4分の3以上の賛成という要件を定款でさらに過重することも可能となっております。
コメント
本件で東芝は現在会社を事業スピンオフによりインフラ関連会社と半導体などのデバイス関連会社に3分割する計画を立てております。事業スピンオフでは、分割する事業が会社の総資産額の20%以下であれば簡易分割として本来必要な特別決議は不要となりますが、分割と同時に承継会社の株式を株主に現物配当する場合で金銭分配をしない場合は特別決議が必要となります。同社でのスピンオフの詳細は不明ですが、金銭分配により特別決議を不要とする手続きになるものと考えられます。しかし大株主であるファラロンがあえて特別決議を要求しており、今後の対応が注目されます。以上のように会社法では株主総会の決議要件について詳細な規定が置かれております。これに不備があった場合は事後決議取消訴訟が提起されるといった事態も考えられます。どのような事項にどのような要件が定められているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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