高知市の建設会社が事故を隠蔽、「労災隠し」について
2022/01/17 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般
はじめに
高知市の建設会社が昨年、工事現場で作業員が大けがをした事故の報告を怠っていたことがわかりました。社長は県建設業協会の会長をすでに辞任しているとのことです。今回は労働安全衛生法違反となる労災隠しについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年12月、高知県内の建設大手「轟組」(高知市)の作業員が工事現場で大けがを負う事故を起こしながら労基署への報告を怠っていたとされます。高知東部自動車道南国安芸道路の工事現場でクレーンで吊るした重さ100キロの木の枠型が落下し、下請け会社の社員である男性作業員に当たり、右足骨折と脊髄損傷の大けがを負ったとのことです。同社の幹部社員は男性作業員を工事車両で病院に運んだものの会社に事故の報告をしていなかったとされます。同社では事故調査委員会を立ち上げ、信頼回復に務めるとしております。
労災隠しとは
労働災害が発生した場合、遅滞なく所轄労働基準監督署に労働者傷病報告を提出する必要がありますが、これを怠ったり、虚偽の内容を記載して提出することを労災隠しと言います。労災保険法は、労働者が労働によって怪我や病気になった場合に、働けない労働者やその家族の生活を支え、また会社の損害賠償の負担を分散して会社の倒産を防ぐことを目的としております。そのため労災が発生した場合、労働者の治療は健康保険ではなく労災保険によることとなります。しかし労基署への報告をせずに直接労働者に治療費を支払ったり、健康保険で治療するよう労働者に指示するといった事業者も少なくないとされます。こういった労災隠しには罰則が規定されており、50万円以下の罰金となっております(労働安全衛生法120条5号)。
労働災害とは
労働災害(労災)とは、仕事または通勤を原因とする怪我や病気、死亡を言います。仕事による場合を業務災害、通勤による場合を通勤災害と言います。業務災害となる要件は、事業主の支配下・管理下にあり、業務が原因となっていることとされております。所定時間内や残業時間内に事業施設で業務に従事している際に発生した怪我などです。休憩中や業務と関係のない私的な行為等による場合は該当しません。次に通勤災害となる要件は、就業に関して住居と就業場所の間の往復、または就業場所から他の就業場所への移動等で、合理的な経路・方法による際の怪我などとなっております。移動の経路を逸脱したり中段した場合は通勤とはならないと言われております。
労災隠しの原因
近年労災隠しによる送検件数は増加傾向にあるといわれております。労災隠しが行われる原因は、労災保険料の増加、労災手続きが面倒、会社の評判の悪化、行政処分の回避などがあるとされております。労災保険を使用すると事業者の労災保険料が増加する場合があり、それを忌避する事業者も多いと言われております。労災が発生した際の手続きが面倒で健康保険を使っての治療を指示していた例もあります。またそもそも労災保険に未加入であったり、その他労働関係法令違反行為があり、労基署の調査が入って違反が発覚することを恐れて報告をしなかったという例も見られます。その他にも労災の発生による会社の評判の低下やそれに伴う取引先への悪影響を恐れて労災隠しをするといったことも考えられます。
コメント
本件で轟組の下請け会社の男性作業員は、工事現場でクレーンに吊るした木枠の落下を受け脊髄損傷と右足骨折の重傷を負いました。業務時間内の事業場での負傷であり労働災害に当たると言えます。同社が労働者死傷病報告を労基署に提出しなかった理由は不明ですが、労災隠しに該当することとなります。以上のように労災保険制度は労働者だけでなく、会社の損害賠償の負担を軽減する目的もあります。しかし実際には様々な理由で労災隠しが行われているのが現状です。大阪労働局の統計でも労働関係の送検件数で、労災隠しは年々増加しているとのことです。労災が発生したことよりも、労災隠しが行われていたことが後々発覚した場合の方が、各種罰則や行政処分、企業イメージの低下などダメージが大きいと言えます。労災発生の際にはどのような対応が必要かを今一度確認しておくことが重要といえるでしょう。
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