サカイオーベックスTOB成立、上場廃止のメリット・デメリット
2021/09/16   商事法務, 戦略法務, 会社法, その他

はじめに

 福井市の繊維加工メーカー「サカイオーベックス」が9日、株式公開買い付けが成立したと発表しました。今後MBOが進められ上場廃止となる見通しです。今回は上場廃止のメリット・デメリットを見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、サカイオーベックスは同社の松木伸太郎社長が新たに立ち上げたサカイ繊維株式会社に株式を取得させるMBOを進めていたとされます。今年2月に実施したTOBでは目標数に達せず不成立となっておりましたが、7月に買付価格を引き上げて再度TOBを実施し、今月8日までにサカイ繊維株式会社がサカイオーベックス株の77%にあたる478万株を取得して成立したとのことです。サカイオーベックスは現在東証一部に上場しておりますが、今後株式併合を利用したMBOにより上場廃止となる見通しとされます。

 

上場廃止のメリット

 近年東証一部上場の大手企業による自主的な上場廃止事例が増加しております。本来上場廃止は上場会社の債務超過や倒産、株主数の基準割れ、時価総額の基準割れ、有価証券報告書虚偽記載などネガティブな要因により証券取引所によって行われてきました。しかし会社側の意思で意図的に上場廃止となっているということです。上場廃止の目的、メリットとして一番に挙げられるのは、経営陣以外の株主を排除することによって経営の舵取りがやりやすくなるという点です。思い切った経営戦略や再建を迅速に行えることとなります。そしてコストカットが可能となる点も大きいと言えます。証券取引所に上場している場合、四半期決算ごとに有価証券届出書の作成が必要となり、会計監査やIR活動にもコストがかかります。またコーポレートガバナンス・コードによる社外役員や内部統制の負担ものしかかります。これらをカットしてコスト削減を図ることが可能です。

 

上場廃止のデメリット

 一方で上場廃止にはデメリットも存在します。証券取引所での株式の取引ができなくなることによって、新株発行による資金調達が困難となります。それに伴い経営陣が保有する株式の流動性も失われ、株式の価値が相対的に低下すると言えます。従業員等にストック・オプションとして株式を保有させていた場合にも影響が出ることとなります。また上場していることによる消費者等からの評判や信頼性、金融機関等からの信用などにも影響を及ぼすことが考えられます。そのため取引先などへの事前の十分な説得や説明なども必要となってくると言えます。

 

上場廃止の手法

 市場に流通する自社の株式を回収して上場廃止とするための手法としてはまず、株式の受け皿となる会社を新規の設立しTOBなどで買い集め、その後MBOを行うことが考えられます。TOBによって株主総会特別決議を可決するだけの株式を買い集めることができたら、その後は全部取得条項付種類株式に変更した上で取得する方法と、株式交換による方法が一般的でした。しかし平成26年会社法改正により議決権の90%以上を取得することができた場合は特別支配株主による売渡請求を利用することができるようになりました(179条)。これによりますと株主総会決議ではなく取締役会決議で行え、簡易・迅速なキャッシュアウトが可能となります。90%を取得できなかった場合は株式併合を利用することが一般的と言われております。その場合には1株に満たない株式については金銭処理を行うこととなります。

 

コメント

 本件でサカイ繊維によるサカイオーベックス株のTOBにより議決権で77%の株式を取得することができたとされます。これにより筆頭株主であるサカイ繊維以外の株主の保有株式が1株未満となる併合割合で株式併合な行われ、キャッシュアウトがなされる見通しとなります。厳しい状況が続く繊維業界で構造改革を進めていく方針とされます。以上のように近年、経営再建の一環としてMBOと上場廃止が行われる例が増加しております。コスト削減と経営のスリム化、意思決定の迅速化が見込めます。一方で再び上場を目指す企業も増加しております。初めての上場とは異なり再上場の場合は証券取引所による審査もより厳格になると言われております。経営再建で上場廃止を検討している場合には、そのメリット・デメリットや再上場の可能性も踏まえて慎重に検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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