茨木労基署が労災認定、「SOGIハラ」とは
2021/09/15 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
性別変更した看護助手が精神障害を発症したのは「SOGIハラ」によるものだとして、茨木労働基準監督署が労災認定していたことがわかりました。SOGIハラによる認定は珍しいとのことです。今回はSOGIハラについて見ていきます。
事案の概要
朝日新聞の報道によりますと、労災認定を受けた看護助手(50)は男性として生まれたものの、幼少期から性自認は女性だったとされます。2004年に性同一性障害特例法に基づき性別を女性に変更して2013年から大阪府内の病院で働いていたところ、職場で男性のような名前で呼ばれたり侮辱的な言動がなされていたとのことです。茨木労基署はパワハラにあたるとして労災認定しました。病院側は職員の発言で精神障害を発症したとは考えられず、職場外のストレス原因が存在した可能性も否定できないと反論しているとされます。
パワハラとは
ここでまずパワハラについて簡単におさらいしておきます。厚労省によりますと、パワハラとは、職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の職業環境が害されるものとされております。優越的な関係とは、事業主や上司など職務上の地位が上位の者は当然として、業務上必要な知識や経験を有し、その者の協力を得なければ円滑に業務を遂行できない場合も該当します。つまり部下や同僚なども該当し得るということです。業務上必要かつ相当な範囲とは社会通念に照らし、業務上必要性がない、または相当ではない場合を言うとされます。そして労働者の就業環境が害されているかは平均的な労働者の感じ方を基準として判断するとされます。パワハラが認定されますと、労災や民事上の責任だけでなく、場合によっては侮辱や名誉毀損などの刑事上の責任も生じ得ることとなります。
SOGIハラとは
近年注目されつつある「SOGIハラ」とは、「Sexual Orientation and GenderIdentitiy」の略で性的指向と性自認を意味します。LGBTがレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字を取り、人そのものを表すのに対し、SOGIは人の属性を表すものと言われております。人の性的指向についての、例えば「あの人オカマっぽい」「仕草が女性みたい」といった発言はSOGIハラに該当します。LGBTでない人に対しても憶測や推測で発言すると該当することからLGBTよりもより抽象的で範囲が広い概念と言えます。厚労省は昨年6月にこのSOGIハラについてもパワハラに該当すると指針に明記しております。このSOGIについては自らカミングアウトする場合もありますが、他人によって本人の同意なくアウティング(暴露)されてしまうこともあります。後者の場合は重大なハラスメントや不法行為となる場合があります。
パワハラ防止義務
以前にも取り上げましたが、2019年の参院本会議でパワハラ防止法が可決成立しました。これにより事業主にはパワハラ防止のための体制整備が義務付けられております。具体的には事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓蒙、苦情などに対する相談体制の整備、被害を受けた労働者へのケアや再発防止などの措置となっております。大企業については2020年4月から施行されており、中小企業については2022年4月から施行される予定となっております。なお取引先や顧客等からのいわゆるカスタマーハラスメントについては措置義務の対象ではないものの、相談体制の整備が望ましいとされております。
コメント
本件で労災認定された看護助手は性同一性障害により男性から女性に性別変更を行っておりました。労基署の認定では職場で男性のような名前で呼ばれたり、人格や人間性を否定するような言動を受けたとされます。これによる心理的負荷は3段階で最も上の「強」とされ、労災認定にいたりました。以上のように人の性的指向や性自認に関して中傷したりする行為はパワハラの一種とされております。日本ではLGBTの人口割合は約8%と言われておりますが、SOGIはLGBTに当たらない人に対しても該当することとなります。上でも触れたように来年から中小企業でもパワハラ防止措置が義務付けられます。これを機に各種ハラスメントの内容や防止策を検討し周知していくことが重要と言えるでしょう。
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