最高裁、懲罰的賠償認めず、国際裁判について
2021/05/27 海外法務, 訴訟対応, 民事訴訟法, その他

はじめに
日本企業が米国裁判所で懲罰的損害賠償を命じられ、日本の裁判所で執行を求められていた訴訟で25日、最高裁は懲罰賠償分の執行を否定していたことがわかりました。懲罰分を差し引いた残りの執行は認めたとのことです。今回は国際裁判について見ていきます。
事案の概要
産経新聞の報道によりますと、米カリフォルニア州の飲食店が企業秘密を取得されたとして日本の不動産会社を提訴し、同州裁判所は同社に対し懲罰的損害賠償9万ドルを含む27万ドル(約3000万円)の支払いを命じたとされます。飲食店側は13万ドル分の債権を米国内で差し押さえ、残りの14万ドル分の債権を日本国内で執行するため日本の裁判所に提訴していたとのことです。大阪高裁は懲罰的賠償分も含め全額の執行を認めました。
国際裁判管轄
外国企業や海外の消費者との間に紛争が生じた場合、どこの国の裁判所、どこの国の法律に基づいて解決するのでしょうか。これを一般的に国際裁判管轄と準拠法の問題と言われます。まず国際裁判管轄については原則として当事者間に合意があればそれに従うこととなります。この合意について判例は、「当該事件が専ら日本の裁判所の専属管轄に属さず、かつ当該外国裁判所に管轄があるときは有効」としております(最判昭和50年11月28日)。つまり日本の裁判所の専属管轄とされる事件や合意された国の法律上管轄がないとされる事件でなければ原則として当事者間の合意を尊重するということです。
準拠法
通常管轄裁判所が決定したら適用される準拠法も原則として当該裁判所が所在する地の法に従って決定されることとなります。日本の裁判所に管轄が認められた場合は「法の適用に関する通則法」という法律に従って判断されます。通則法では原則として当事者の合意があればそれを尊重することとなります。それが無い場合は「最密接関係地法」によるとされております(8条1項)。一方が特徴的な給付を行う場合、その者の常居所地の法が準拠法となります(同2項)。また不動産を目的物とする場合はその不動産の所在地法が準拠法となります(同3項)。消費者契約や労働契約については特則が置かれており、当事者が準拠法を指定していない場合は消費者の常居所地法を、労働契約においては労務提供地が最密接関係地となります(11条、12条)。消費者や労働者は一般的に情報力や交渉力が小さく立場が弱いことからこのような扱いとなっております。
外国判決の承認と執行
それでは外国の裁判所で出された判決を日本国内で執行することはできるのでしょうか。外国裁判所の判決は日本の裁判所で執行判決を得ることによって日本国内で執行できるようになります。外国判決が日本の裁判所に承認されるための要件は、①法令・条約によって外国裁判所に裁判権が認められること、②敗訴被告が適切に送達を受けていたこと、③判決の内容及び訴訟手続きが日本における公序良俗に反しないこと、④相互保証があることとされます(民事訴訟法118条)。相互保証とは同種の事案において相手国でも日本の裁判所の判決が承認されているのかということです。なお懲罰的損害賠償については日本では公序に反することから認めないとされております(最判平成9年7月11日)。
コメント
本件で最高裁は、懲罰的損害賠償は日本では無効であり、外国裁判所の手続きですでに一部が弁済されていたとしても、異なる解釈をする理由はないとして懲罰分を除く賠償額からすでに弁済された部分を控除した残りの5万ドル分のみ認めました。以上のように日本の最高裁は一貫して外国の懲罰的賠償を認めておりません。日本では懲罰は刑事または行政の範疇であり、民事では認めないという扱いを徹底しているからです。それ以外の分野では原則的に外国法の扱いを尊重していると言えます。また裁判管轄や準拠法についても原則として当事者間の合意を尊重することとなっております。これらの点を踏まえて海外の企業と取引等を行う際には管轄は適用法令についても慎重に取り決めておくことが重要と言えるでしょう。
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奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
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- 視聴時間1時間27分