大阪高裁で消費者支援機構が敗訴、「追い出し条項」とは
2021/03/10   不動産法務, 消費者取引関連法務, 民法・商法, 消費者契約法, 住宅・不動産

はじめに

賃貸借契約をめぐり、一定の要件を満たせば物件を明け渡したとみなして家財を処分できると定めた条項は違法であるとしてNPO法人「消費者支援機構関西」(大阪市)が家賃保証会社「フォーシーズ」(東京)に条項の差し止めを求めた訴訟の控訴審で5日、大阪高裁は適法との判決を出していたことがわかりました。今回は賃貸借契約での追い出し条項について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、フォーシーズが賃貸物件の借り主と締結する契約の中に、2ヶ月以上の家賃滞納、連絡が取れない、長期にわたり電気やガスなどの使用がない、客観的に見て再び物件を使用する様子がないの4要件を満たした場合、借り主が物件を明け渡したとみなして家財を処分できるとする条項が含まれるとされます。NPO法人側はこのような条項は消費者契約法に違反するなどして同社に対し条項の差し止めを求め提訴しておりました。一審大阪地裁は本条項を違法と判断しました。

 

家賃滞納時等の問題点

 賃貸借契約で借り主が家賃を滞納するといったトラブルは多く、場合によっては借り主が夜逃げしてしまって連絡も取れず、家財もそのまま放置され、次の借り主に貸すこともできないといった事態に陥ることもあります。このような場合物件の貸主はどのように対処すべきでなのでしょうか。まず訴訟を提起していまだ存続している借り主との賃貸借契約を適法に終了させ明け渡してもらう必要があります。しかし借り主はすでに行方不明となっていることから公示送達手続きによって提訴する必要があります。これらの手続きを経て明け渡しを完了するには場合によっては1年近くかかることもあり、相当な負担となると言えます。そこで一定の要件のもと契約を解除して明け渡したものとみなす条項を盛り込んでおくことがあります。

 

追い出し条項の問題点

 賃貸借契約に盛り込まれる条項に、一定の要件を満たすと自動的に賃貸借契約が終了し、賃貸人は物件に残る家財を一方的に撤去・処分できるとするものも存在します。このようないわゆる「追い出し条項」と呼ばれる特約は消費者契約法10条に違反するのではないかとの指摘があります。同条では、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものは無効とされます。また本来上記のように法的な手続きを経て明け渡しを実現すべきところ、このような条項によって賃貸人等が強制的に物件の明け渡しを可能とすると、借り主の財産権や占有権を不当に侵害し、無理な取り立てを助長することになるとも言われております。

 

一審大阪地裁の判断

 一審大阪地裁は、物件内の家財を一方的に撤去されても借り主が異議を述べることができず、本条項は消費者契約法に違反し違法無効であるとしました。また賃貸借契約が終了していない段階で買ってに家財を持ち出す行為は不法行為に当たると指摘しました。ただし一定の期間家賃を滞納すると一方的に賃貸借契約を解除できるとする部分については貸主側のリスクコントロールの方法として不合理ではないとし適法としました。

 

コメント

 大阪高裁は一転、本件条項を適法としました。西川裁判長は、4要件を満たす状況下では借り主がすでに家財を守る意思を失っている可能性が高く占有権が消滅していると認められるとして消費者保護を定めた消費者契約法にも反しないと指摘しました。これに対し原告側は、法的手続きを経て慎重に決められるべき明け渡しの判断を業者側に委ねるものであり不当だとしております。以上のように賃貸物件での家賃滞納や夜逃げをめぐるトラブルは多く、本件のようないわゆる追い出し条項を定める例も少なくありませんが、条項の適法性についての高裁判断は今回が初とされます。今後上告審での判断が注目されます。賃貸物件を扱っている場合には、これらの判断を踏まえて今一度契約条項を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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