地裁が3割の支払いを命じる、懲戒解雇と退職金について
2020/12/16 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
定年退職の6日前に懲戒解雇された郵便局員が退職金の支払いを求めていた訴訟で高松地裁は約3割の支払いを命じていたことがわかりました。勤続の功を全て抹消するほどの背信行為とは言えないとのことです。今回は懲戒解雇の際の退職金の扱いについて見ていきます。
事案の概要
読売新聞の報道によりますと、原告の男性は1987年から郵便局職員として勤務しておりました。高松市内の郵便局に在籍していた2016年~19年に郵便物の切手を剥がし、代わりに料金別納郵便のシールを貼るなどの手口で郵便切手を約1万8600円分盗んだとされます。このことは定年退職の1ヶ月前に発覚し、6日前に懲戒解雇され退職金も不支給となったとのことです。男性は退職金約2260万円の支払いを求め高松地裁丸亀支部に提訴しておりました。
退職金とは
退職金とは退職した労働者に対し支払われる金銭で退職手当や退職慰労金などと呼ばれることもあります。賃金の後払い的な性質があり、永年勤続を奨励する意味合いもあると言われております。日本では退職金については法定されておらず退職金制度を導入するかは会社の任意となっております。しかし就業規則に規定を設ける場合、適用される労働者の範囲や退職金の決定、計算、支払い方法や支払時期に関する事項を設けなければならないとされております(労基法89条3号の2)。そして就業規則で退職金を定めた場合はそれは賃金の一部となり、会社側に支払う義務が発生することとなります。
懲戒解雇と退職金
退職金制度を導入している会社でも、従業員が懲戒解雇された場合は就業規則に不支給または減額と定められている場合が多いと言えます。それでは懲戒解雇の場合は常に就業規則に従って退職金を不支給とすることは可能なのでしょうか。この点について裁判例では、賃金の後払い的要素の強い退職金を全額不支給とするには、当該労働者の永遠の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要としました(小田急事件東京高裁平成15年12月11日)。そして懲戒事由についても、業務上横領や背任の場合は強い背信性が認められ、職務外での非違行為の場合は会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視し得ないような損害を生じさせるような強度の背信性が必要としております。
退職金の支給を認める例
懲戒解雇が有効である場合は裁判所も原則的に退職金不支給も有効であるとする場合が多いと言えます。しかし上記のように一定の場合には支給を認める裁判例もあります。一部支給が認められた例としては、酒気帯び運転で罰金刑を受けた場合、社外で強制わいせつ致傷財で有罪判決を受けた場合があります。また懲戒解雇処分は見送ったものの懲戒解雇相当の懲戒事由がある場合も退職金の支払いを拒否することはできないとされております(東京地裁平成6年6月21日)。取引先に請求書提出をしておらず、800万円あまりが回収不能になった事例では、そもそも懲戒解雇自体が解雇権の濫用として無効とされております(東京地裁平成15年10月29日)。
コメント
本件で原告男性は約1万8600円分の郵便切手を盗んだとして懲戒解雇され退職金も全額不支給とされました。しかし高松地裁は懲戒解雇自体は有効としたものの、勤続の功を全て抹消するほどの背信行為とは言えないとし、全額不支給は合理性が無いとして約680万円の支払いを命じました。切手を盗んだ行為は悪質であるとしたものの勤続30年以上の功を0にするほどではないと判断されたと言えます。以上のように退職金は賃金の後払い的性質があり、懲戒解雇されれば当然に退職金も不支給にできるというわけではありません。解雇を簡単にはできないように退職金不支給も簡単にはできないということです。従業員の懲戒解雇の際にはその懲戒事由の性質や態様、その従業員の勤続年数やこれまでの勤務態度など様々な要素を考慮して、それまでの功を抹消できる程度と言えるかを慎重に判断していくことが重要と言えるでしょう。
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