すし店解雇で労働審判申し立て、タトゥーと解雇について
2020/09/09 労務法務, 労働法全般, 外食

はじめに
高級すし店で勤務していた男性(20)が体にタトゥー(入れ墨)があることを理由に解雇されたのは違法であるとして損害賠償を求め労働審判を申した立てていたことがわかりました。事実確認もないまま解雇通知がなされたとのことです。今回はタトゥーと解雇の可否について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ホテルニューオータニ(千代田区)に入る高級すし店で板前補佐として勤務していた男性が体にタトゥーがあるとの情報により解雇されたとされます。7月26日、男性の友人が同すし店店長に男性がタトゥーをいれていることを示唆し、同店を運営する紀尾井久兵衛の社長が2日後に事実確認をしないまま解雇したとのことです。同時に杉並区の寮からも退去するよう求められたとされます。その後双方の協議により解雇は取り下げられたものの、タトゥーが入っている間は調理準備のしごとしかできないと言われ、計約580万円の損害賠償と賃金支払いを求め東京地裁に労働審判の申し立てを行いました。
タトゥーと労務関係
タトゥー(入れ墨)は欧米諸国では広くファッションの一種として受け入れられ、多くの人が気軽にタトゥーを入れるようになってきたと言われております。一説には米国では国民の20%がタトゥーを入れているとも言われております。しかしやはり欧米でも接客業や公共サービス、行政官や公務員を中心にタトゥーを入れている人の採用については消極的であり、禁止されているところも多いと言われております。日本においてもタトゥーは欧米に比べ一般にはそれほど浸透しておらず、タトゥーに対する忌避感や嫌悪感を抱く人は依然として多いと言えます。それは同時に労務関係にも影響し、従業員がタトゥーをしていることがわかると社内で様々な問題が生じることが少なく有りません。それでは従業員のタトゥーを理由に解雇等を行うことができるのでしょうか。以下具体的に見ていきます。
タトゥーと裁判例
一般企業の事例ではありませんが、大阪市の職員を対象に体のタトゥーの有無を市が調査することの是非が争われた事例で裁判所はタトゥーについて「現時点の我が国において、反社会的組織の構成員に入れ墨をしている者が多くいることは公知の事実であり、他人に入れ墨を見せられることで不安感や威圧感をもつことは」偏見とは言えず、ある程度のタトゥーへの制限は許されないものではないとしています(大阪高裁平成27年10月15日)。現在の日本社会でタトゥーは反社会的組織をイメージする人が多く、その点に配慮することもしかたがないことということです。
タトゥーを理由とする解雇の可否
それではタトゥーを理由として解雇することは可能でしょうか。労働契約法16条では、解雇は客観的に合理的な理由を必要とし、社会通念上相当でなければ解雇権の濫用として無効となるとしています。また15条では懲戒について、労働者の行為の性質および態様、その他の事情に照らして客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がない場合、やはり懲戒権の濫用として無効となるとしています。就業規則などで明確にタトゥーを禁止している場合に、それに違反してタトゥーを入れた場合などは解雇することも可能な場合もあると考えられます。しかしこの場合でも、業種やその労働者の業務内容、タトゥーの位置や大きさなどの事情を考慮して解雇としての相当性を判断することとなると言えます。また接客業などで業務上の支障が生じうる場合でも、見えない服装にするよう指導したり、配転などの段階を経るなども必要と言えるでしょう。
コメント
以上のように裁判所では、現在の日本においてタトゥーはいまだ反社会的勢力の象徴とのイメージが根強く、タトゥーに対し一定の制約を課すこともある程度許容されているとの立場をとっています。しかし労働契約法での規制もあり、就業規則などで予め明確に禁止していない場合はタトゥーを理由に解雇等を行うことは容易ではないのが現状です。本件でも同すし店では就業規則に明示されておらず、男性の代理人弁護士は解雇は違法としています。また十分な事実確認や本人の意見聴取、解雇以外の手段を検討することなくいきなり解雇を言い渡した点も手続履践の観点から解雇権の濫用行為と判断される可能性が高いと思われます。自社の業種や業態からタトゥーを好ましくないと考える場合はまず就業規則等に明示し、採用段階で最初にその旨を伝えておくことが重要と言えるでしょう。
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