6月1日から施行、パワハラ防止法について
2020/06/03 労務法務, 労働法全般
はじめに
昨年5月29日に成立した改正労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法が、6月1日から施行されました。中小企業は2022年4月1日からとなります。今回はパワハラ防止法について概観していきます。
改正の経緯
厚生労働省の発表によりますと、2018年に各都道府県労働局によせられた労働相談のうち、パワハラに関するものが約8万3000件に上るとされております。2012年以来7年連続で最多記録を更新しており、パワハラに絡む訴訟も増加傾向にあります。そこで事業者に一定のパワハラ防止義務を課することによって平時からパワハラ発生を抑止する社内環境作りを義務付ける改正法が成立することとなりました。以下具体的に見ていきます。
事業者と労働者の責務
パワハラ防止法では事業者の責務として、職場におけるパワハラとそれに起因する問題について労働者に関心と理解を深めること、労働者に必要な研修を実施する等の配慮を行うこと、事業者自身がハラスメント問題に関する関心と理解を深めることを定めております。また労働者にも同様にパワハラに関して理解と関心を深め、事業者のパワハラ防止措置に協力することが定められております。
職場におけるパワハラ防止措置義務
パワハラ防止法では事業主に次の措置を講じることが義務付けられております。まず職場内でパワハラの内容やパワハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、行為者には厳正に対処する旨を就業規則等に規定し周知・啓発する必要があります。そして相談窓口を設置し、相談担当者が適切に対応できるよう体制の整備が義務付けられます。また事後的にも被害者への配慮や行為者への措置、再発防止を迅速かつ適切に行うこと、相談者・行為者等のプライバシー保護、相談したことを理由とする不利益取扱禁止の周知啓発などが盛り込まれております。
パワハラの定義
パワハラ防止法ではこれまで厚労省が定めていたパワハラの定義を明文化しております。それによりますとパワハラとは、職場において行われる、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものとされております。また具体例として殴打・足蹴りなどの身体的攻撃、侮辱・ひどい暴言などの精神的攻撃、隔離・仲間外し・無視といった人間関係からの切り離し、過大または過小な要求、プライバシー侵害などが詳細に挙げられております。
コメント
パワハラ防止に関してはこれまでも男女雇用機会均等法や女性活躍推進法などに規定はされておりました。しかし上記のとおり近年パワハラに関する相談や訴訟は増加の一途をたどっており対策が急務とされておりました。今回の改正法施行により刑事罰は無いものの、義務付けられている措置を講じていなかった場合には労働局による指導や勧告が出され、改善が見られない場合には企業名の公表ができるようになりました。パワハラ防止にはまだ不十分との意見も出ておりますが、行政による措置が追加された分、一定の抑止効果は期待できるのではないかと思われます。パワハラ事例が生じた場合、賠償請求や訴訟のリスクもありますが、なにより会社イメージの低下が大きいと言えます。今一度パワハラ対策を見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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