商標登録のすゝめ
2020/04/08 商標関連, 商標法

1.はじめに
・「無印良品」の商標権を巡る訴訟
2019年11月4日、 「無印良品」を展開する良品計画と中国の企業との間で発生した「無印良品」の商標権を巡る訴訟について、良品計画が相手企業に対して、約1000万円を支払う旨の判決が確定しました。この訴訟は、以下の経緯から発生しました。良品計画の中国子会社は、タオルやベッドカバーについて「無印良品」の中国における商標権を持たないまま、中国国内で「無印良品」の商標を付してこれらの製品を販売しました。タオルやベッドカバーについて「無印良品」の商標権を持っている中国の企業は、良品計画の中国子会社による販売行為は商標権の侵害である、として訴訟を提起しました。2017年12月に、良品計画は第一審で敗訴しました。その後、良品計画は上告しました。しかし、中国は二審制であるため、2019年11月4日に前述の判決が出たことによって、良品計画の敗訴が確定したことになります。
・「無印良品」の商標権を巡る訴訟から言えること
「無印良品」の商標権を巡る訴訟は、海外展開するにあたって、展開する国における商標登録をしなかったことから発生したといえるでしょう。そのため、このような事態が起こらないようにするためにも、展開する国においての商標登録を行うべきでしょう。さらに、商標制度の根幹は世界共通です。そのため、日本国内での事業展開についても同様に、日本国内における商標登録を行うべきでしょう。
とはいえ、商標制度については、なじみが薄いかもしれません。そこで、商標制度の説明を交えながら、商標出願の際に検討するべきことを、以下で述べていきたいと思います。
※参照:
中国「無印」商標訴訟で良品計画が敗訴 1千万円支払い(朝日新聞)
2.商標とは?
まず、商標について考えていきたいと思います。商標とは、事業者が、自社の取り扱う製品・サービスを他社のものと区別するために使用するマークです。では、自社で取り扱う製品・サービスに商標を付けることによって、どのような効果が期待できるでしょうか。以下の2つの効果が期待できます。①識別機能、②宣伝機能の2つです。具体的に考えるために、自社で販売するシュークリームのパッケージに、ウサギの絵が描かれた商標(以下、「ウサギの商標」)を表示することを想定しながら考えてみましょう。
①識別機能
シュークリームのパッケージにウサギの商標を表示することによって、他社のシュークリーム(商標がないものや、犬や猫の商標がついたもの)と区別することができます。
②宣伝広告機能
パッケージに表示されたウサギの商標がかわいいので、自社のシュークリームを買ってみたいといった外部からの評価につなげることができます。このことにより、ウサギの商標を付けることによって、自社のシュークリームを宣伝することができるようになります。
以上の2点の効果が発揮されることによって、自社製品のブランドを構築することができるようになるでしょう。
※参照:
商標制度の概要(経済産業省)
商標とは(特許庁)
商標の機能と商標登録 指導手引(日本弁理士会)
3.商標権を取得するとどのような権利が発生するの?
「2.商標とは?」で述べてきたウサギの商標を、特許庁の手続きに則って商標登録することを想定してみましょう。まず、商標登録することにより、日本国内におけるウサギの商標についての商標権を取得し、商標権を行使することができるようになります。具体的には、以下の2つの権利を行使することができます。①登録した商標を独占して使用できる権利(商標法25条本文)、②他社が自社の商標を使用していた場合、差し止めることができる権利(商標法36条1項)の2つです。以下、具体的に見ていきましょう。
①登録した商標を独占して使用できる権利
自社のみが、そのウサギの商標をシュークリームについて使用することができます。
②他社が自社の商標を使用していた場合、差し止めることができる権利
他社が、そのウサギの商標をシュークリームについて使用していた場合、差し止めることができます。その他にも、そのウサギの商標を使用するために行う、製造や輸入などの行為についても差し止めることができます(商標法37条各号)。また、他社がウサギの商標と類似する商標を使用していたり、それらの商標をシュークリームと類似した商品に使用している場合に関しても、差し止めることが認められます。
これらの権利は、商標登録しなかった場合には発生しません。その結果として、ウサギの商標を他社が商標登録してしまった場合には、自社が使用をすることについての差し止め請求を受けることも考えられます。そのため、自社が作成した商標を実際に使用することを考えるのであれば、商標登録することをお勧めします。また前述のとおり、商標権の効力が及ぶのは、商標登録をした国内のみです。そのため、海外進出を検討しているのであれば、進出を検討する国ごとに、商標登録することもお勧めします。
※参照:
商標権の効力(特許庁)
4.商標出願をする上での注意点
・商標登録ができることを確認する
既に登録されている他人の商標については、登録することができません(商標法4条1項11号、12号)。 そのため、このような事態を防止するために、出願しようとしている商標が、既に登録されているものであるかどうかを確認するべく、商標調査を行う必要があるでしょう。商標調査の手段としては、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営するJ-PlatPatが挙げられます。下記の参照URLにリンクを張りましたので、ぜひご活用ください。そのうえで、より詳しい商標調査を行いたい場合には、弁理士に調査依頼を行うことも1つの方法であるでしょう。
その他にも、国旗など公共の機関の標章と紛らわしいものや、ありふれた名称であるために自社と他社との区別ができない商標など、商標登録できない類型があります。そのため、自社が登録しようとしている商標が、このような類型に当てはまらないことを確認する必要があります。この点についても、不安があれば弁理士に相談するのがよいでしょう。
※参照:
商標検索(J-PlatPat)
商標審査の進め方(特許庁)
出願しても登録にならない商標(特許庁)
・指定商品や指定役務について検討する
〇指定商品や指定役務とは
商標権は、指定商品または指定役務ごとに登録され、効力が発生します。そのため、指定する商品・役務を検討する必要があります。指定商品または指定役務は、全部で45種類のカテゴリーに分かれています。以下、 自社で販売するシュークリームのパッケージにウサギの商標をつける場合、どのようになるか見ていきましょう。
〇自社で販売するシュークリームのパッケージにウサギの商標をつける場合
シュークリームは「菓子」になるので、指定商品を「第30類 菓子」とすることが考えられます(「第30類 シュークリーム」とすることも考えられますが、保護される範囲が狭くなってしまうため、あまりおすすめできません)。
では、商標のキャラクターであるウサギが人気になった際に、ウサギの商標を文房具にもつける場合にはどのようになるでしょうか。「第30類」には文房具が含まれません。そのため、 「第30類」 のみの商標登録のままでは、文房具には商標権の効力が及びません。そこで、文房具についても商品展開をしたいと考える場合には、ウサギの商標の指定商品を「第16類 文房具」についても付したほうがよいのではないでしょうか。
また、 他社が自社の商標を許可なく使用する場合、ウサギの商標をシュークリーム以外の商品にも付けて使用することが考えられます。そのため、そのような他社に対して権利行使をするためには、そのような他社がどの商品にウサギの商標をつけるであろうかという点を予測したうえで、指定する商品または役務を検討したほうがよいのではないでしょうか。この点については、弁理士と協議したうえで決めるのが良いのではないかと考えられます。
・費用について
商標登録については、大きく分けて以下の項目に関する費用が発生します。
〇商標登録にかかる各手続き(出願料、登録料など)について、特許庁に納付する費用
〇商標権を維持するために、特許庁に納付する更新登録申請金(日本においては、10年に1度が原則)
〇調査依頼や各種手続きなどを代行してもらった際に、弁理士に支払う報酬
※以上に挙げた費用は、国内のみならず海外で手続きを行う際においても発生します。
そのため、費用の観点で、自社が使用を考えている全ての商標について商標権を登録することが現実的でない場合もあるかもしれません。また、全ての商品・役務を指定することも現実的ではない場合が多いでしょう。そこで、費用を効率的に使うために、登録する商標や指定する商品・役務について戦略を立てる必要があります。その際には、以下の事項を総合考慮するのがよいのではないでしょうか。
〇自社の展開するビジネス(商標を使用するもの)について、見込めそうな利益
〇自社が使用しようとしている商標や現在使用している商標を、他社が使用する可能性
〇商標権の出願や維持などにかけられる費用
※参照:
各類に属する代表的な商品・役務(2019年1月1日以降の出願に対応)(特許庁)
産業財産権関係料金一覧(特許庁)
商標権の更新(特許庁)
5.商標権登録の手続きについて
商標権登録については、以上で述べたような様々な考慮事項があることから、弁理士と協同して出願手続きを行うことが望ましいでしょう。しかし、商標登録に関する手続き自体は、弁理士なしでも行うことができます。そこで、最後に、弁理士なしで登録をする際に役に立ちそうな情報を下記にまとめました。
〇初めてだったらここを読む~商標出願のいろは~(特許庁)
→出願段階で役に立ちます。【出願したい!まずその前に…】、【いざ、出願!】を一読することをお勧めします。
〇お助けサイト∼通知を受け取った方へ∼(特許庁)
→拒絶理由通知、登録査定の手続きを行う際に役に立ちます
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