関電、業績連動型導入へ、判例からみる賞与について
2020/01/06 労務法務, 労働法全般

はじめに
関西電力は従業員の賞与を業績連動型にする方針であることがわかりました。大手電力会社10社で初の試みであるとのことです。今回は従業員に支給する賞与を判例から見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、関西電力は電力自由化の影響で電力販売が伸び悩むなか、従業員に業績向上への意識を高めてもらうことを目的として業績連動型賞与制度を導入する方針を固めました。この制度では、前年度の業績に応じて賞与が決まることとなっており、目標値である経常利益1250億円を上回れば賞与が上がるとされます。また一定の業績の確保で4ヶ月分の賞与が保障されるが、目標値を大幅に下回った場合は労使間で協議して決めるとのことです。2020年度から実施されます。
賞与と法的規制
賞与とは定期給の労働者に対し、定期給とは別に支払われる給料を言います。一般にボーナスと呼ばれており、夏と冬に支給される場合が多いと言われております。賞与について直接の規定は置かれておりませんが、厚労省通達では「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないもの」とされております(昭和22年9月13日発基17号)。また労基法では臨時の賃金等を支給する場合、就業規則にその規定を置く必要があるとされます(89条4号)。
賞与に関する判例
(1)労働協約未成立の場合
賞与の具体的な算定基準等は労働協約によって定められることが多いと言われておりますが、労働者が前提条件の受諾を拒否したことから協定が成立しなかった場合に、従前の労使関係等に照らして合理性が無く、労働者に著しい不利益を与える場合には、会社が前提条件を主張することは信義則に反するとして、条件なしの賞与の支払い認めた例があります(千葉地裁平成14年11月19日)。
(2)育休等との関係
賞与の支給要件としての出勤率の算定で、産前産後休業や育児休業など労働基準法等で認められた権利の行使を不利益に扱うことは、法の趣旨を実質的に失わせると認められる場合には公序に反し無効とした例があります(最判平成15年12月4日)。また男女雇用機会均等法に照らし、妊娠・出産による労働能率の低下の割合を超えて賞与を減額することは同法の禁止する不利益取り扱いに該当するとされます(厚労省告示第614号)。
(3)在籍要件
就業規則等で一定の基準日に会社に在籍している者を支給の対象とするとの定めを置く場合も多いとされます。この点について、自己都合退職者や期間満了により退職した者、定年退職した者、労働者自身の帰責性により普通解雇されたものはこの基準日に在籍していないことを理由に不支給となっても不合理ではないとされます(東京地裁平成8年10月29日)。逆に会社の資金繰りや断交の遅れなど会社側の都合により支給が遅れた場合などで基準日には在籍しなかった者への不支給は不合理であると判断されております(東京地裁平成24年4月10日)。
コメント
一般に賞与の支給基準や支給額の算定方法は労使間の合意等で自由に決定できるとされております。しかしその内容は合理的でなければならず、合理的理由のない差別的取り扱い等は違法となります。本件で関電は経常利益1250億円を目標値として、それを上回れば賞与額が上がるとする内容の業績連動型賞与の導入を予定しております。このような従業員にインセンティブを与える賞与体系を定めることも可能と言えます。以上のように賞与について直接的に規定した法令はありませんが、裁判例は解釈によってある程度の枠組みは示されております。従業員の賞与を減額する場合や不支給とする場合には合理的な理由が説明できるか、他の労働法令に抵触しないかなどを慎重に確認していくことが重要と言えるでしょう。
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