日産に24億円勧告、有報虚偽記載の課徴金について
2019/12/13 金融法務, 金融商品取引法
はじめに
日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(65)が金商法違反で起訴された事件で証券取引監視委員会は10日、同社に約24億2500万円の課徴金を命じるよう金融庁に勧告していたことがわかりました。課徴金の額としては過去2番目とのことです。今回は有価証券報告書虚偽記載の課徴金について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、2011年3月期~2018年3月期のゴーン被告の約91億円を有価証券報告書に少なく記載したとして監視委は今年1月、同被告とともに法人としての日産自動車を刑事告発し、その後地検により起訴されておりました。同被告は開示すべき報酬を繰越名目で開示しておらず、また報酬額の詳細開示義務のある報酬1億円以上の役員についても開示していなかったとされます。これを受け監視委は法人としての日産自動車に約24億2500万円の課徴金納付を命じるよう勧告を出しました。
有価証券報告書の提出義務等
金融商品取引法によりますと、①金融商品取引所に上場されている有価証券を発行している会社、②店頭登録している有価証券等を発行している会社、③それら以外の有価証券で募集・売出しにつき有価証券届出書の提出が義務付けられている会社、④その他過去5年間の事業年度の末日時点で保有者数が1000人以上の有価証券を発行している会社には有価証券報告書の提出が義務付けられます(24条1項)。有価証券報告書には内閣府令により、会社の概況、業績等の事業状況、設備状況、株式や役員等の状況、経理状況、株式事務の概要、その他監査報告などの記載が必要となります。
有価証券報告書に虚偽記載をした場合
有価証券報告書に虚偽記載をした場合、罰則として10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となる場合があります(197条1項)。また法人としての会社に対しても7億円以下の罰金が科されることがあります(207条1項)。そして虚偽記載により損害を受けた投資家等は不法行為として損害賠償を会社や代表者に請求することができるとされます(民法709条、東京地裁平成20年4月24日)。さらに金商法上でも会社や役員に対し責任追及の規定が設けられました(21条の2、24条)。
課徴金とその額
金融商品取引法では証券市場の公正性・透明性確保の観点から平成17年4月に課徴金制度が導入されました。その対象はインサイダー取引、公開買付開始公告の不実施、大量保有報告書の不提出など多岐にわたりますが、有価証券報告書の虚偽記載も含まれます。虚偽記載についての課徴金は、当該発行者が発行する有価証券の市場価格の総額の10万分の6、または600万円のいずれか高い方となります(172条の4)。四半期報告書や半期、臨時報告書の場合はその半額が適用されます(同2項)。また独禁法のリーニエンシー制度と同様に当局の調査前に監視委に違反事実を報告した場合は課徴金が半減されます。逆に過去5年以内に課徴金納付命令を受けた者が再度違反した場合は1.5倍となります。
コメント
本件では課徴金勧告の時効5年にかからない2015年3月期~2018年3月期の4年分が課徴金の対象となったとされます。そして本来の課徴金の算定額は約40億円であったところ、監視委の調査が始まる前に違反事実を自主申告していたことから減免制度が適用され約24億2500万円となったとのことです。以上のように有価証券報告書等についてはかなり厳格な規定が置かれております。刑事罰や課徴金だけでなく、場合によっては上場廃止基準に抵触することも考えられます。また役員等に対して株主からの代表訴訟等の責任追及も有りえます。上場会社等である場合には今一度有価証券報告書や届出書、臨時報告書などに間違いがないかを慎重に見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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