データセクションが自社株のみで買収、産業競争力強化法によるM&Aについて
2019/11/29 M&A, 会社法

はじめに
データセクションは22日、産業競争力強化法の認定を受けた旨発表しました。これにより自社株を対価としてM&Aを行っていく方針です。競争力強化法によるM&Aは国内初とのことです。今回は産業競争力強化法によるM&Aについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、ビッグデータ分析を手掛ける「データセクション」は、チリで画像解析サービスを展開する「ジャック・テクノロジー」を買収する方針とされます。ジャック・テクノロジーの株主に対しデータセクションの株式を第三者割当増資として発行し、引き換えに現物出資としてジャック社の株式を引き受けるとしています。データセクションの発行する株式は発行済株式数の13%に上るとされております。今回のM&Aは産業競争力強化法の認定の下で行われるとのことです。
自社株対価の問題点
企業買収などのM&Aに際して自社株を対価とする場合、会社法上いくつかの問題点が存在します。たとえば買収先の会社の株式を取得する対価としてその会社の株主に自社株を新たに発行し交付する場合、買収先の会社の株式を現物出資として受け入れ新株発行するという形になります。この場合、会社法では原則として検査役の調査を要することとなります(207条)。また対象会社の株主に有利な比率で自社株を対価として交付する場合、有利発行として株主総会の特別決議が必要となってくる可能性もあります(199条2項、3項、309条2項5号)。このように自社株を対価とするM&Aでは会社法上いくつかの規制を潜る必要があり負担が大きいと言えます。
産業競争力強化法による緩和
そこで平成23年、産業活力再生特別措置法により公開買付(TOB)の場合に限り会社法の有利発行規制や現物出資規制を適用しないこととされました。しかし同法による規制緩和は公開買付のみという適用範囲の狭さから一度も利用されることがなかったと言われております。そこでそこでアベノミクスの一環として産業競争力強化法改正により事業再編計画の認定を受けた場合には公開買付以外でも会社法の適用除外を受けることができることとなりました。
再編計画の認定要件
経済産業省のガイドラインによりますと、産業競争力強化法による認定要件は①3年以内(大規模設備投資の場合は5年)の計画期間、②計画開始から3年以内の生産性向上の見込み、③財務の健全性、④労組との十分な協議など雇用への配慮、⑤計画開始から3年以内の新サービス開発や新生産方法の導入など前向きな取り組みなどが挙げられております。またその際に行われる再編行為としては、合併、分割、株式交換、株式移転、事業譲渡、出資の受け入れ、会社の設立、他の会社の買収、設備の撤去等となっております。
コメント
M&Aを行うだけの資金は保有していないものの、高い株価を維持しているベンチャー企業などでは金銭の代わりに自社株を対価として買収を行うといったことが欧米では一般的と言われております。しかし日本では上記のように会社法上の規制があり、また近年までTOBのみの緩和となっておりました。そこで平成30年産業競争力強化法改正により再編計画の認定を受けることによって多くの組織再編行為で自社株が利用できるようになりました。本件でのデータセクションによる買収が日本初の認定となります。これにより検査役の調査や特別決議を経ることなく手続きを進められます。以上のように一定の要件のもとで現金等の対価を準備できなくとも、株式発行という形でM&Aが行えるようになっております。M&Aの一つの手段として把握しておくことが重要と言えるでしょう。
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