ネット関連会社が敗訴確定、検索結果の削除要件について
2019/07/30 IT法務, 刑事法

はじめに
社名をグーグルで検索すると詐欺行為に関わっているような検索結果が表示されるとして、東京のインターネット関連会社が米グーグル社に検索結果の削除を求めていた訴訟で最高裁は16日、原告側の上告を退けました。これにより原告側敗訴が確定したこととなります。今回は検索結果の削除要件を判例からみていきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告会社は自社名や社長名をグーグルで検索すると「だまされた」「詐欺師」などと表示され、同社が詐欺行為に関わっているかのような検索結果が出ていたとされます。同社は名誉毀損に当たるとして米グーグル社に検索結果242件の削除を求め提訴していましたが、一審東京地裁は検索結果が真実ではないとは認められないとして請求を棄却、二審東京高裁も検索結果の削除は検索事業者の表現行為を制約することになるとして棄却しておりました。
検索結果の削除請求
検索エンジンでの検索で問題のある検索結果が表示される場合には各検索事業者に削除を依頼することができる場合があります。グーグルの削除ポリシーによりますと、著作権侵害や児童ポルノといった法律に基づく削除や機密性の高い個人情報を請求に基づいて削除するとしています。対象となる個人情報とは、銀行口座番号やクレジット番号、診療記録やマイナンバーなどが挙げられます。反面、生年月日や住所、電話番号などは基本的に削除対象とならないとしています。検索事業者が任意に削除に応じない場合は削除の仮処分申立てとともに訴訟により削除を求めることとなります。
検索結果の削除要件
それではどのような場合に検索結果の削除が認められるのでしょうか。過去に児童買春の被疑事実で逮捕され罰金刑が科された事実が検索結果に表示され、検索事業者に削除を求めた事例で最高裁は、検索事業者による検索結果の表示を表現行為(憲法21条)と認めた上で、「当該事実を公表されない法的利益」と「検索結果として提供する理由に関する諸事情」を比較衡量し、前者が優越することが明らかである場合に削除請求が認められるとしました(最高裁小法廷平成29年1月31日)。原告側のプライバシー権と検索事業者の表現の自由を天秤にかけて判断するということです。
判断要素
原告側の公表されない法的利益と事業者側の諸事情の比較に際して検討される判断要素として最高裁は、①当該事実の性質・内容、②伝達される範囲と具体的被害の程度、③事業者の社会的地位や影響力、④その記事の目的・意義、⑤その記事が掲載された時の社会的状況とその後の変化、⑥その事実を記載する必要性を挙げております。原告側と被告側のこれらの要素を総合的に判断してどちら側が優越するかを個別に判断していくということです。
コメント
本件で最高裁は原告側の上告を退ける決定をしました。上記判例でも最高裁は前科事実はプライバシーに属するものであると認めつつも、検索でわかることの限定性や利害の公共性などから事業者側の表示の優越性を認めたと言えます。このように最高裁が示した検索結果削除の要件は相当厳しいものと言えます。裁判所で確定された事実であれば犯罪前科であっても認められにくく、そうでない場合でも、完全な事実無根であることが明確といった場合でなければ削除が認められることは難しいのではないかと思われます。自社の検索結果表示の問題が生じている場合には、ここに挙げた判断要素を踏まえた上で削除請求が認められるかを緻密に検討していくことが重要と言えるでしょう。
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