日立のコードレスクリーナーがリコール、製品の不具合と企業の対応について
2019/07/30   危機管理, 製造物責任法

はじめに

 日立グローバルライフソリューションズは今年7月10日、2018年8月に発売したコードレススティッククリーナーについてリコールを発表しました。対象となったのは「PV-BF700」。充電制御の一部に不具合があり、場合によって充電中に発煙・発火する恐れのあることが判明したと発表されました。なお、これまで人的被害をはじめとした二次被害は発生していない模様です。日立は注意喚起をすると共に無償修理を呼び掛けています。
 このように製造した製品に不具合が発覚した場合、企業としてはどのような法的リスクが発生しているのでしょうか。
※参照:日立 コードレス スティッククリーナー PV-BF700の発煙・発火のおそれについて

リコール制度について

 一般的に企業の製品に不具合があった場合、リコールが行われ商品の回収や無償修理が行われることがよくあります。
 自動車の場合、道路運送車両法の明文でリコール制度が設けられています。また消費生活用製品安全法の特定製品として経済産業省が定める10品目(例えば家庭用圧力がまや登山用ロープ)などについては法32条において危害防止命令、すなわちリコールについて明文が存在します。
 他方で一般的な製品についてはリコールを明文で定めた規定は存在しません。あくまでも企業の自主的なリスク回避手段としてリコールが行われている現状です。
 消費者庁のリコール情報サイトにはこうしたリコール情報が一元的にまとめられており、製品に対してどのような対応策を各企業がとっているか確認することができます。
※参考記事:
日産自動車が121万台回収へ、リコール制度について(法務ニュース、2017/10/04)
※参照:
経済産業省ガイドライン「消費生活用製品安全法のご紹介」
消費者庁リコール情報サイト

製品の不具合によるリスク

 一般的な製品に不具合があり実際に事故が発生した場合、製造者である企業は法律上、製造物責任法による賠償責任のリスクを負います。
 この法律ができた沿革は欠陥品の製造者とユーザーである被害者は直接の契約関係にないことが多い(通常販売者が間に挟まっている)ため、賠償責任を追及するには民法709条の不法行為責任として追及するしかなかったことにあります。不法行為責任追及の場合には製造者の過失を被害者が立証しなければならないのですが専門的な技術上の問題点について一消費者である被害者が過失を立証するのは非常にハードルが高いものでした。
 そのため平成6年に製造物責任法が施行され、製造者の無過失責任、つまり製造者の故意・過失にかかわらず製造物から生じた損害について責任が認められることになり賠償の対象が拡大しました。
 自主的なリコールはこの製造物責任法の影響が大きいといえるでしょう。つまり製造物の事故は故意・過失にかかわらず賠償の危険があるので企業としては事故が起きる前に回収し、何とかその危険を減らす必要がある訳です。

法務としての動き方

(1).販売前にしておくべき予防策
 先述した製造物責任法は、製造者と被害者との関係での賠償責任を規定するものです。一方で、製造者が販売者を通じて製品を販売する場合、リコール対応には販売者の協力が不可欠ですが、製造者と販売者との関係について製造物責任法は規定していません。両者の責任分担をどのようにするかは専ら契約上の問題となります。
 そのため、販売店契約を結ぶ際には契約書の中に製造物責任条項を盛り込んでおく必要があります。仮に製品の仕様・設計に販売者が全く関与していないならば、賠償責任は製造者が負うこととなり、リコール対応にかかる費用を製造者が負担する旨の条項を定めることになるでしょう。反対に、販売者が製品の仕様・設計に関与していれば、設計上の欠陥があるのか、あるいは製造上の欠陥があるのか、責任の所在が不明確な場合もあり得ます。このような場合の責任分担について、製造者である企業の法務は販売者の関与の度合いなどを精査し、販売者の責任までも負ってしまうことが無いように契約書を作成する必要があるでしょう。
参考:寺村総合法務事務所 販売代理店契約書のポイント・留意点4

(2).製品のリスクを把握した場合
a. 企業としては一旦事故が起こってからでは遅いので製品のリスクを正しく把握しなければなりません。製品開発の現場では、販売済みの製品についても継続してテストを行い、リスクの洗い出しを行います。

b. 法務としては、現場で見つかったリスクを法的に評価し、その内容を現場や業務執行を行う取締役に適切に伝える必要があります。例えば、自動車の設計又は製作の過程で不具合が見つかった場合、道路運送車両法63条の2以下の規定に従って、法律上リコールが必要な事案に当たるか否か判断します。見つかった不具合により、自動車の「構造、装置又は性能が保安基準に適合していないおそれ」があると認められると国土交通省に届け出ることが義務付けられます。そのため、国土交通省が公表している最新の保安基準をチェックし、見つかった不具合が保安基準に不適合な重大な欠陥に当たるか否か判断することが大切です。また、保安基準に規定されていない不具合でも安全確保や環境保全のために看過できない重大な欠陥と認められれば改善対策届出を行うことが必要になりますし、安全確保・環境保全に直接関係しない不具合でもサービスキャンペーンにより必要な改善措置を行うことも考えられます。法務はこれらの中でどの措置を取るのが適切か基準に沿ってリスクを評価し、他の部署に伝えていくことになります。
参考:

国土交通省 自動車:道路運送車両の保安基準(2019年5月28日現在)
国土交通省自動車局審査・リコール課 自動車のリコール・不具合情報 よくあるお問い合わせ

c. また、リスクについての情報を円滑に収集し、緊急性・重大性の高い事案については即座に情報共有できるよう、社内連絡体制を整備することも法務の役割です。情報を一元的に管理することで、経営者がいつでも情報にアクセスし、定期的に取締役会で製品安全確保のための議論することが可能となります。

d. その上で製品に不具合があることを周知徹底する方法はどうするのか、商品への対応は修理や交換、返金など様々考えられるがどれが適切か、対応の窓口はどのように設置するのか、といった点について事故時のリスクを把握できる法務が率先して動くことが求められます。
 その際には例えば周知の方法としてTV・新聞等どのメディアが適しているか顧客層などを考えながら広報担当等と相談したり、どの商品対応がもっとも負担が少ないか現場に意見を聞いたりと各部で連携することがベストな不具合対応といえ、「不具合対応のしっかりした会社」として失われる信頼を最小限に抑えることができるでしょう。

(3).リコールを決定した場合
 企業がリコールを決定した場合の具体的な対応の一つとして、記者会見を行うことが考えられます。記者会見を開く場合、法務は経営トップや広報担当者といった社内の部署だけでなく、リコール対応の専門知識を有する社外の弁護士とも協力して会見の内容をコントロールする必要があります。不具合から実際に事故が生じ、後で被害者から訴訟を提起された場合など会見の内容も証拠となり得るからです。後の訴訟で不利にならないよう、リコールを行うことが決定した段階で弁護士に迅速に相談し、支援を受けることが重要です。そのために法務は、日常的に弁護士から助言を受けるなどして信頼関係の構築に努めるべきでしょう。

コメント

 企業としては製品に不具合がないことが一番ですが、世の中に「絶対」はありません。不具合は起きるものとしてその対応策を事前に考えておき、不具合を発見しても迅速な対応を行うことで失われる信頼を最小限にとどめることが重要です。そのためには日頃から社内の連絡体制を整備し、社内各部署との情報共有を行うことはもちろん、販売者や弁護士といった社外の関係者・サポート機関との連携を強化することが、法務のすべき事前対策と言えるでしょう。
 そして、いざ不具合を発見した場合に、その不具合が具体的にどのような法令・規則に違反する可能性があるのか、不具合を原因として訴訟に発展したらどのような責任を負うことが予測されるのか(例えば、製造物責任法上の責任を追及されたら無過失責任を負う可能性があることなど)といった法的リスクを速やかに評価し、適切な不具合対応の判断を企業ができるよう、判断の下地を整えることが法務に求められる役割と言えるのではないでしょうか。

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