反社会勢力との関係遮断のために何をすべきか
2019/06/28 コンプライアンス, 民法・商法

1.はじめに
報道によれば、6月24日、吉本興業株式会社は、振り込め詐欺グループが関与するイベントに芸人が事務所を通さずに参加し、いわゆる「闇営業」を行ったとして、芸人11人を謹慎処分としました。同社は4日にも、その「闇営業」を仲介した芸人を解雇しています。
芸能事務所にとどまらず、反社会的勢力と関係を持たないようにすることは、企業の信用の維持のための重要な事項です。そこで、今回は政府が設けた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を紹介するとともに、反社会的勢力と関係を持ってしまった場合のリスクを考えます。
※参照:日本経済新聞報道
企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説
2.反社会的勢力とは
上記参照の政府の指針によると、反社会的勢力とは、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」をいいます。反社会的勢力か否かを判断する際には、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要であるとしています。
3.「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」とは
(1)この政府指針は、平成19年、犯罪対策閣僚会議により、企業と反社会的勢力の関係遮断のために設けられたものです。反社会的勢力による被害を防止するための基本的な理念や具体的な対応を定めたものであるため、法的拘束力はありません。以下、内容を見ていきます。
(2)基本原則
政府指針は、基本原則として大きく5つを挙げています。
①組織としての対応
反社会的勢力に対して担当者のみで対応した場合、恐怖感を与えることにより要求に応じざるを得ない状況に陥ることもありうるため、倫理規定、行動規範、社内規則等に明文の根拠を設け、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体で対応することを挙げています。また、従業員の安全を守ることも含まれます。
②外部専門機関との連携
平素から、警察、暴力追放運動推進センター、弁護士等の外部の専門機関と緊密な連携関係を構築することが挙げられます。
※暴力追放運動推進センター
暴力団による被害を防止するため、セミナー開催や刊行物発表、有事の際の相談受付等を行っている団体です。
③取引を含めた一切の関係遮断
反社会的勢力とは、取引関係を含めて、一切の関係をもたず、反社会的勢力による不当要求は拒絶することを挙げています。
④有事における民事と刑事の法的対応
反社会的勢力による不当要求に対しては、民事と刑事の両面から法的対応を行うことです。
⑤裏取引や資金提供の禁止
反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由と する場合であっても、事案を隠ぺいするための裏取引を絶対に行わないこと、また、反社会的勢力への資金提供は絶対に行わないことを挙げています。
(3)指針が挙げる平素からの具体的な対応
以上の原則に沿って、平素から対策を行っていくことが大切です。
まず、代表取締役等の経営トップは、原則の内容を基本方針として社内外に宣言(例:株式会社エス・ピー・ネットワークHPから反社会的勢力排除宣言)し、実現のための社内体制の整備、従業員の安全確保※①、外部専門機関との連携等の一連の取組みを行うことが必要です。
また、反社会的勢力による不当要求が発生した場合の対応を統括する部署を整備することも考えられます。その部署は、反社会的勢力に関する情報を社内で管理・蓄積※②し、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを支援するとともに、社内体制の整備、研修活動の実施、対応マニュアルの整備、外部専門機関との連携等を行います。
取引等の際には、相手方が反社会的勢力であるかどうかについて、常に通常必要と思われる注意を払うとともに、反社会的勢力とは知らずに関係を有してしまった場合には、判明した時点や疑いが生じた時点で、速やかに関係を解消することが重要です。さらに、契約の際には、契約書や取引約款に暴力団排除条項※③を導入することも考えられます。
※① 従業員の安全確保のためには、例えば、対応する部屋を決めておき、 録音、撮影機器等をセットし ておくとともに、暴力追放ポ スターや責任者講習受講修 了書等を掲げておくことが挙げられます。
※② 反社会的勢力に関する情報は、警視庁や株式会社エス・ピー・ネットワーク、日本信用情報サービス株式会社等の企業のデータベースで入手することが可能です。
※③ 暴力団等反社会的勢力とは取引しないこと、取引開始後反社会的勢力と判明した場合、解約することを条項に入れます。例:大阪府警察作成一般的契約例
(4)指針が挙げる有事の場合の対応
反社会的勢力による不当要求がなされた場合は、速やかに対応部署、担当取締役等に報告をし、外部専門機関に相談します。原則①に従い、組織全体として対応するとともに、あらゆる民事上の法的対抗手段を講じ、刑事事件化も躊躇せず行い、更なる被害を防止する必要があります。
また、反社会的勢力への資金提供は、弱みにつけこまれた不当要求につながり、被害の更なる拡大を招くとともに、暴力団の犯罪行為等を助長し、暴力団の存続や勢力拡大を下支えするものであるため、絶対に行ってはなりません。
そのほか対応の詳細は、暴力追放運動推進センターHPの暴力団等に対する基本的対応要領暴力団等に対する基本的対応要領も参照ください。
4.反社会的勢力と関係を持った場合のリスク
まず、企業が反社会的勢力と関係を持っていることが明るみに出ると、企業の信用は著しく低下し、事業活動が困難化する可能性が考えられます。
また、3で紹介した政府指針には、法的拘束力がないため、指針に従わなかったからといって罰せられたり、責任を負ったりすることはありません。しかし、例えば、取締役の善管注意義務の判断に際して、民事訴訟等の場において指針が参照され、指針に沿った対応がなされていないとして、善管注意義務違反が認定される場合は考えられます。
5.コメント
企業が反社会的勢力と関係を持ってしまった場合、当該企業には4のリスクが考えられるうえ、更に反社会的勢力の活動を活発化し、新たな被害を生む危険性があります。よって、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」にのっとり、有事になる前に対応を決め、社内体制を整備することが重要です。社員に対し研修を行ったり、マニュアルを作成したりして、企業全体で反社会的勢力排除の意識を高める必要があります。また、取引等をする際には取引相手が反社会的勢力ではないかを必ずチェックし、現在取引をしている相手方に関しても注意深く反社会的勢力と何らかの関わりあいを持っていないかを確認することが重要だといえるでしょう。
さらに、本件吉本興業においては、同社と芸人間の契約が雇用契約かマネジメント契約か詳細は明らかではありませんが、「世間一般的に見て」社員と思われる者の反社会的勢力との関係が問題となっています。実は派遣契約や業務委託により外部の者が働いているのに、世間から見れば社員と見られるような場合、その者の反社会的勢力との関係が明るみに出ると企業に批判が集中する可能性があります。そのため、社員に対する研修やマニュアルを整備するだけでなく、外部の者でも社員と見られるような労働者等に対して企業の反社会的勢力に対する行動規範を周知する機会を設ける必要があるでしょう。
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