ブロックチェーンの基礎知識
2019/06/27 情報セキュリティ, 金融商品取引法

はじめに
近年、ビットコイン等仮想通貨が幅広く流通しています。仮想通貨がここまで盛り上がりを見せたのはブロックチェーンと呼ばれる基幹技術の存在が大きく貢献しているのですがその内容を正確に理解するのは困難です。
今回は法務担当者として最低限理解しておいた方がよいと思われる、ブロックチェーンの基礎知識についてご紹介致します。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンを大まかに理解するとデータベースの一体系ということができます。しかし既存のデータベースが「プール」のように情報を集約して貯蔵するイメージであるのとは大きく構造が異なります。
ブロックチェーンは情報をブロック化し、それを時系列に沿って前後で繋がって保存していく点に特徴があり、これがまさに「チェーン」と呼ばれる所以です。
なぜこのような構造を取るのでしょうか。
その理由は前後でつながる時に各ブロックは個別の情報に加え、前のブロックのデータ内容を示すハッシュ値というデータを包含することにあります。
ハッシュ値はハッシュ計算という一定のアルゴリズムによって算出された計算結果のことで情報が少しでも変更されるとハッシュ値は全く異なる結果となる特徴があります。
仮に過去のブロック内の情報を改ざんしようとした場合、変更したブロックから算出されるハッシュ値は以前と異なることから、後続するすべてのブロックのハッシュ値も変更しなければなりません。しかしそうした変更は事実上困難であることから改ざんがされにくい、また改ざんが直ちに判明することになります。
このようにブロックチェーンは改ざん耐性に優れたデータ構造を有しているのが大きな特徴です。
※参照:ブロックチェーンの仕組み(NTTDATA)
仮想通貨との関わり
ブロックチェーンの歴史は仮想通貨の歴史とも言えます。
ブロックチェーンはもともと仮想通貨取引を記録する基幹技術として誕生しました。世界初の仮想通貨であるビットコインが2008年10月31日に論文発表されてから2か月後の2009年1月3日、ビットコインの最初のブロックが誕生し、同月12日世界初の取引が行われてから現在に至るまでブロックが繋がり続けているのです。
現在ではブロックチェーンはその優れた改ざん耐性から仮想通貨取引のみならず、その他の金融分野、医療、不動産、シェアリングサービス等の国内外の幅広い分野で利用されています。
※参照:ビットコインの歴史と価格推移(Bitcoin日本語情報サイト)
法務との関わり
法務との関わりでブロックチェーンの利用を検討すべき点として、まず第一に改ざんしにくい記録が低労力で実現できることが挙げられます。
既存のデータベースは複数のデータの集合体から利用の都度データを読み込んで表示するという作用のためデータ相互に有機的なつながりあるわけではなく、改ざんが気付きにくいという難点がありました。
他方ブロックチェーンは上述のように一つの改ざんでそれ以後全体のハッシュ値が正常値とならなくなるためチェーン全体に影響が生じ、改ざんがすぐにわかります。
このようにブロックチェーンを利用することで改ざん耐性に優れたデータが作成可能となり、かつそれはデータを記録するだけで実現可能なため低労力で実現できます。
また改ざんが困難であり、かつデータが時系列で繋がっていることは権利変動の記録としての有用性を示しています。
すなわち登記などの権利変動の記録はブロックチェーンのように前後のデータを参照できる形で残すことができれば権利変動を巡る不要な紛争の防止に繋がります。
しかし、ブロックチェーンにもリスクは当然存在します。改ざん耐性の高さは逆に融通の利かなさとも表裏一体です。例えば過去に誤ったデータが記録されてしまった場合等に事実上それを消去できず残り続けるといったリスクが考えられ、チェック体制が完備されていない状態での導入は却って混乱を招くでしょう。
具体例
以上からすると現状でブロックチェーンを法務で採用するメリットのある場面としては前後の繋がりを記録として残しておくことが望ましいデータについては採用が期待されます。
例えば権利の移転などは常に二重譲渡の危険にさらされるものですがブロックチェーンで権利移転を紐づけすることで原理上権利の二重譲渡の問題は発生しなくなり、紛争の防止に役立つでしょう。
他方で特段前後の繋がりまで記録しておく必要性が必ずしも存在しないデータについては単に改ざんのおそれが少ないというだけで無理にブロックチェーンを採用する必要はなく、却って不要な混乱を招く恐れがあります。
例えば顧客情報などは改ざんの恐れなく管理しておきたい需要は存在するでしょう。しかし顧客の購買傾向などは前後の繋がりが重要とも言えますが、氏名・住所・電話番号等の個人情報は変動がさほど予定されていません。かえって一旦誤った情報が登録されてしまうとそれに対して直接的に修正を行う手段がなく、個人の名誉・プライバシーの保護が十分に保護されない恐れが生じてしまいます。
コメント
ブロックチェーンは応用の余地の大きい技術であり、未だ過渡期と言えます。本稿ではあくまで最低限の基礎知識として外縁を俯瞰するにとどまりましたが現状ではその融通の利かなさが法務にとっては仇となりえる場面が大きく、既存のデータベース体制で十分であるとして敢えてシステム変更をする必要がない場合も多いでしょう。
法務担当者としてはすぐに変更することは無いにしても新技術の発展に伴うシステム導入の可能性を注視し続けることが求められるといえるでしょう。
またいざ導入が決まった場合、そのシステム構築は慎重に行う必要があります。特に不確定要素が入り込みがちな一般消費者との取引においては現状のような取引と同レベルの円滑な取引体制を構築するのは相当難易度が高いものと言えます。法務担当者としてはこれらの難点を強く意識して導入に関与していくことが求められているでしょう。
※参照:ブロックチェーンが通貨以外で当面普及しない理由(日本経済新聞、2018/03/18))
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