日亜化学がYouTubeを提訴、ネット中傷対策について
2019/06/07 危機管理

はじめに
動画投稿サイト「YouTube」に投稿された動画で中傷され社会的信用を損なうとして日亜化学工業(徳島県阿南市)が動画の削除を求め提訴していたことがわかりました。元従業員による投稿とのことです。今回はネットによる誹謗・中傷対策について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、日亜化学の元従業員を名乗る者が昨年の4月12日にYouTubeに2種類の動画を投稿したとされます。動画は日本語と英語で投稿されており、工場は鳥や犬が紛れ込む不衛生な状態などといったテロップが流れ、製品を購入しないよう呼びかけているものと、特定の従業員の住所と氏名をテロップに入れ、パワハラがあったとする内容のものとのことです。同社は事実に基づかず、名誉・社会的評価を低下させるものとしてYouTube側に削除を求めま提訴しました。
名誉毀損とは
事実を摘示することによって相手の社会的評価を低下させる行為を名誉毀損と言います。「あの人は過去に犯罪を犯した」「あの会社は裏で違法な行為を行っている」といった内容の書き込みをしたり、ビラを配るといった行為が典型例と言えます。摘示する「事実」は真実か虚偽かは問いません。社会的評価の低下を招く内容を不特定多数の人が知りうる状態に置けば成立します。この行為は刑事罰(刑法230条)の対象となると同時に民事上の責任も発生します(民法709条、723条)。なお例外的にその事実が公共の利害に関することで、専ら公益目的で行われた場合には適法となることがあります。
投稿者の特定
掲示板や動画投稿サイトなどに名誉毀損的な書き込みや動画が投稿され、相手方に賠償請求などを行うには相手方を特定する必要があります。プロバイダ責任制限法4条によりますと、「権利が侵害されたことが明らか」であり、「開示を受けるべき正当な理由」がある場合にはプロバイダに対し発信者の氏名や住所などの開示を請求することができます。なおこの場合でもプロバイダが任意に開示してくれない場合にはやはり訴訟によって開示を求めていくこととなります。
送信防止措置請求
プロバイダ責任制限法3条1項によりますと、プロバイダは書き込みや投稿によって他人の権利が侵害されることを知り、または知り得た場合に、技術的に可能であるにもかかわらず送信防止措置を講じなかった場合に限り賠償責任を負うとしています。つまり技術的に可能で名誉毀損となることを知り得た場合には削除等を行う義務があるということです。そこで被害者側はプロバイダに削除等を請求することができます。やはり任意に応じてもらえない場合には訴訟によることとなります。またこのような事案では迅速に削除し、少しでも早く衆目に晒された状態を解消する必要があることから仮処分の申し立てを行うことも有効と言えます(民事保全法13条1項)。
コメント
本件で投稿されたとされる動画では日亜化学の工場の不衛生さと、特定の従業員がパワハラを行っていたとする内容です。これらが事実であった場合、同社の社会的評価を低下させる恐れのある事実の摘示に該当する可能性は高いと思われます。このような場合にはやはり判決で結論が出るまで公開され続けるのは望ましくないことから、迅速に仮処分申し立てを行うことが適切と言えます。近年ネット利用の増加により誹謗中傷などの名誉毀損的書き込みや不適切な動画の投稿が相次いでおります。上記のように被害を受ける恐れのある場合にはいくつかの法的対処法が存在します。名誉毀損的投稿がなされた場合を想定して準備しておくだけでなく、そのような投稿や書き込みがないかを摘示チェックしておくことも重要と言えるでしょう。
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