大戸屋が従業員一斉教育、バイトテロの法的問題について
2019/03/05 労務法務, 労働法全般

はじめに
和食レストラン「大戸屋」は12日に国内店舗を一斉休業すると発表しました。アルバイト従業員による不適切動画問題で従業員の再教育を行うとのことです。今回は従業員が不適切な動画を投稿した際に生じうる法的問題について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、マスクで顔を隠した大戸屋の従業員が店内でズボンを脱ぐなどしてふざける映像がインターネット上で投稿されていることが2月に発覚しました。同社の調査では大阪府泉佐野市内の「りんくうシークル店」のアルバイト従業員であると判明し、関与した3人のアルバイト従業員はすでに解雇されているとのことです。この問題を受け同社では国内350店舗を一斉休業し従業員に研修を行うとしています。研修では店舗内へのスマホ等の持ち込みの禁止、終業後の速やかな退店などを確認し書面で宣誓を求めるとされます。また同社取締役5人は3月の報酬を10%減額するとのことです。
刑事上の問題
従業員が店舗内で不適切な行為を行いその様子を動画で公開した場合、その従業員には業務妨害罪が成立する可能性があります(刑法233条、234条)。3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。また飲食店やコンビニなどの店舗内で、食品に口をつけたり、ゴミ箱に一旦入れて戻すなどと言った行為を行い、それにより顧客に食中毒などの健康被害が生じた場合は傷害罪となり15年以下の懲役または50万円以下の罰金となりえます(204条)。また店舗側も過失傷害罪が成立する可能性が出てきます(209条1項)。また刑事責任ではありませんが、食品衛生法違反として営業停止命令などが出されることも考えられます(6条、55条)。
民事上の問題
従業員の不適切行為によって店舗側に生じる損害としては、まず顧客減少等による営業上の減益があげられます。不適切、または不衛生な行為がネット上で拡散し消費者が利用を控えることが想定されます。また株価も下落し、事態の調査や再発防止策の策定と安全性の説明とアピールなどに人件費などの増加が見込まれます。またそのような事態を招いたことによる監督責任として株主から経営陣への責任追及がなされることも想定できます。不適切行為によって顧客に実害が生じた場合には、顧客からの賠償請求もあり得ると言えます。これらの損害は賠償請求が可能でしょうか。
従業員への賠償請求について
上記の店舗側に生じた損害は不適切行為を行った従業員に請求することが考えられます。法的には不法行為や債務不履行に該当し得ると言えます(民法709条、415条)。では従業員が未成年者だった場合はどうでしょうか。民法では責任能力が無い場合は責任を負わないとされており(712条)、その場合は親権者などの監督義務者が責任を負います(714条1項)。責任能力は判例では11~12歳程度で認められておりアルバイト従業員には通常責任能力があります。そのため親権者は原則として責任を負わないということになります。判例では責任能力が認められても、親権者等の監督義務違反と損害との間に因果関係が有れば一般不法行為は生じうるとしていますが(最判昭和49年3月22日)、普段から危険な行為を繰り返していることを知っていて放置した場合などに限定されておりアルバイト中の行為では認められないと考えられます。
コメント
本件で大戸屋は不適切動画を投稿した従業員を既に解雇しており法的措置も検討しているとされます。営業減益分や対応に要したコストなど相当の損害が生じると思われますが、従業員側に賠償請求しても経済的に損害分を回収することは困難と思われます。近年インターネットでの動画投稿が急激に成長しており、年収数億円を稼ぎ出すユーチューバーも少なくないと言われております。それに伴いネット上で注目を集めようと過激な行為に出る者も相次いでおります。最近でも大戸屋以外にくら寿司、セブンイレブンなどで同様の問題が生じております。厳格に法的措置を取る方針の会社も多いですが、まずは従業員教育の徹底が重要と言えます。軽率な行為を行えば会社側に刑事・民事・行政上どのような損害が生じるのか、また従業員にどのような責任追及と法的責任が生じうるのかを周知教育していくことが重要と言えるでしょう。
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