日立製作所に提訴、元請け会社の安全配慮義務について
2019/02/05 労務法務, 労働法全般

はじめに
日立製作所の孫請け会社で働いていた男性(66)が長時間労働で自殺したとして先月10日、遺族が日立製作所などに損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。1ヶ月の時間外労働は138時間に及んでいたとされます。今回は元請け会社の負う安全配慮義務について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、自殺した男性は日立製作所が受注した工事現場で現場監督として働いていました。男性は日立製作所の下請の下請(孫請け)会社から雇用されていたとされます。男性は日立製作所の監督の下、大阪市から埼玉県川口市に赴任し製薬会社の配管工事の監督をしていましたが、通常の半分の工期で終えるよう指示され30日間連続勤務、月138時間の時間外労働を行っていたとのことです。その後うつ病を発症し自宅アパートで自殺し、昨年6月には労基署により労災認定がされているとされます。
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、特別な法律関係にある当事者間に認められる、その法律関係に付随する信義則上(民法1条2項)の義務とされます。もともとは時効にかかった不法行為に代わって契約に付随する義務として債務不履行責任を追求しようとしたことが始まりと言われます。判例では「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において…付随義務として…信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」としています(最判昭和50年2月25日)。現在では労働契約法にも明文化されております。
元請け会社の安全配慮義務
上記のとおり安全配慮義務は雇用契約など一定の契約関係に付随する義務とされます。では直接の雇用関係がない下請会社の従業員などに対しても元請け会社は安全配慮義務を負うのでしょうか。裁判例では元請け会社の設備・工具等を使い、元請け会社の指揮監督を受け、作業内容も元請け会社の従業員と変わらない場合は「特別な社会的接触関係」に入ったと認められ、信義則上安全配慮義務を負うとしました(最判平成3年4月11日三菱重工神戸造船所事件)。つまり直接の雇用関係がなくとも、実質的にそれに近い業務を行っていると認められる関係にあれば安全配慮義務も認められる可能性があるということです。
建設・造船業の場合
建設や造船事業者が「一の場所」において下請会社などに仕事の一部を請け負わせている場合は労働安全衛生法上「特定元方事業者」に該当することになります。特定元方事業者は一つの場所において作業が行われることによって生じる労働災害を防止するための必要な措置が求められます(30条)。一つの場所とは具体的にはビルや鉄塔、地下鉄、橋梁などの建設現場、造船作業現場などが該当します。このような場合にはより安全配慮義務の存在が認められやすいと言えます。
コメント
本件で亡くなった男性は日立製作所が請け負った製薬会社の配管工事現場で孫請け会社の雇用の下で勤務しておりました。また日立製作所の指揮の下に業務を行っていたとされ、また労働安全衛生法上の特定元方事業者にも該当すると考えられます。安全配慮義務があったと認められる可能性はあると言えます。このように安全配慮義務は「特別な社会的接触関係」に入ったといえる場合に生じます。裁判例では直接の雇用関係がある場合だけでなく、指揮監督や設備の使用等、実質的にそれに近い場合にも認めていると言えます。近年下請や孫請会社を利用することはどのような分野においても一般的に行われております。下請け会社を利用している場合にはこのような責任が生じることもあるという点に留意して適切に対応することが重要と言えるでしょう。
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