技能実習生に残業代支払い命令、労基法の付加金制度について
2018/11/16   労務法務, 労働法全般

はじめに

 茨城県行方市の農家で働いていた中国人技能実習生が、最低賃金を下回る時給300円程度の水準で働かされていたとして未払い残業代などの支払いを求めていた訴訟で水戸地裁は200万円の支払いを命じていました。200万円には労基法上の付加金も含まれているとのことです。今回は労基法の付加金制度について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、原告の女性(32)は5年前から行方市の農家で技能実習生として働いていたとのことです。女性はシソの葉を出荷するために1束2円でシソの葉を輪ゴムで束ねる仕事を請け負っていたところ、時給に換算すると最低賃金を下回る300円程度であったとして農家を相手取り1100万円余りの損害賠償や残業代の支払いを求め提訴していました。また女性は同農家の男性からセクハラも受けていたと主張しております。

労基法の付加金とは

 労働基準法に違反して割増賃金等の支払いを行わなかった場合には、その支払が命じられたり罰則として罰金や懲役が科されることがあります。しかしそれとは別に悪質な場合には付加金の支払いが命じられる場合があります。これはアメリカの労働基準法の付加賠償金制度を日本にも導入したもので、一種の制裁金の性質を有します。以下具体的な要件を見ていきます。

付加金の要件

 労基法114条によりますと、付加金の対象となる違反行為は①解雇予告手当を支払わなかったとき(労基法20条)、②休業手当を支払わなかったとき(26条)、③割増賃金を支払わなかったとき(26条)、④年次有給休暇の賃金を支払わなかったとき(37条)が挙げられております。これらの違反行為が行われ、労働者が未払い分の支払いを求め訴えた際に「労働者の請求により」裁判所は未払金と「同一額の付加金」の支払いを命じることができるとされております。つまり労働者が裁判所に請求した場合に裁判所の裁量で未払金を倍にして支払いを命じることができるということです。なおこの制度は訴訟でなければ利用できず、労働審判では付加金を命じることはできないとされております。またこの付加金には判決確定日の翌日から支払い済みまで年5%の遅延損害金を付する必要があります(最判昭和50年7月17日)。

付加金が免除される場合

 付加金の請求は違反があった時から2年以内にしなければならないとされております(114条但書)。これは除斥期間と解されており、2年以上経過してしまった場合には請求できないということです。また判決がでるまでに、正確には事実審の口頭弁論集結時までに未払金が全額支払われた場合は付加金は請求できなくなるとされております(最判昭和35年3月11日)。つまり控訴審が終結する前に未払い分を支払ってしまえば付加金は課されないことになります。

コメント

 本件で技能実習生の女性は、シソの葉を束ねる作業を1束2円の請負契約という形式で行なっていたと考えられます。しかしこの点について水戸地裁は「農家の指揮監督下で行われ、雇用契約に基づくもの」として未払い残業代を算定し、付加金も含め200万円の支払いを命じました。付加金を課する明確な基準は条文上も判例でも明らかにはされておりませんが、一般的に使用者の悪質さ、不誠実さが強い場合に認められると言われております。近年技能実習生や外国人労働者に関する労働法違反事例が急増しております。また労働者不足を補うため、政府も入管難民法を改正し外国人労働者の受け入れを拡大する動きも見せております。外国人労働者を雇用している場合は、日本人と同様に労働関係法令に違反はしていないか、実質雇用契約である請負をさせていないか等を今一度確認しなおすことが重要と言えるでしょう。

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