大林組に2億円の罰金、独禁法違反と刑事罰について
2018/10/23 コンプライアンス, 独占禁止法

はじめに
リニア中央新幹線の建設工事を巡る入札談合事件の判決公判で22日、東京地裁は大林組に罰金2億円、清水建設に罰金1億8千万円を言い渡しました。大林組はリニエンシー制度に基づき最初に申告をしていたとのことです。今回は独禁法違反と刑事罰について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、大林組、清水建設、鹿島建設、大成建設の大手ゼネコン4社は2014年から2015年にかけて、JR東海が発注するリニア中央新幹線の品川駅、名古屋駅の新設工事に関して談合を行ったとされます。4社は予め受注予定者を決め、各社がJR東海に提示する見積額なども詳細に調整することで合意し、発注された24件の工事を4社で3~4件ずつ受注したとのことです。4社のうち大林組はいち早く談合を認め公取委に申告し、ついで清水建設も申告をを行っておりましたが鹿島建設と大成建設は談合を否定しておりました。
談合の独禁法上の規制
談合とは競争入札に際し、入札参加事業者が事前に話し合って落札予定者を決め、他の事業者が落札予定者が落札できるよう協力する行為を言います。独禁法ではいわゆる不当な取引制限に該当し禁止されております(3条後段、2条6項)。不当な取引制限は「相互に事業活動を拘束」することによって「一定の取引分野における競争を実質的に制限」することとされますが、入札談合に関しては「基本合意」と「個別調整」があれば該当することになるとされます。基本合意とはどのように落札予定者を決めるかの基本ルールを合意しておくことで、個別調整とはそのルールに基づいて具体的に落札予定者を決定することを言います。
談合に対するペナルティ
上記のとおり談合は独禁法の不当な取引制限に該当し、排除措置命令(7条)、課徴金納付命令(7条の2)の対象となっております。また刑事罰も規定されており5年以下の懲役または500万円以下の罰金、そして法人に対しても5億円以下の罰金となっております(両罰規定 89条、95条)。刑法上も談合罪として2年以下の懲役または250万円以下の罰金となっておりますが、独禁法とはいわゆる観念的競合となり法定刑の重い独禁法が適用されることになります。
公取委の刑事告発に関する方針
公取委が公表している「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」によりますと、独禁法違反事件に関しては「国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案」や違反を反復したり、排除措置に従わないなど「公正取引委員会の行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できない」場合に刑事告発する方針だとしています。ただしリニエンシー制度により最初に申告した事業者またはそれと同等と評価できるだけの調査協力を行った事業者等は告発しない方針です。この場合でも追加で求められた資料提出を拒んだり、虚偽の報告をしたり、他の事業者に違反行為を強要するなど悪質な場合は除外されます。
コメント
本件で東京地裁は、リニア建設工事について「公的資金の導入が決まるなど公共性が極めて高い国家的プロジェクト」であり、4社は受注予定者だけでなく見積価格や内訳の単価まで連絡し合っており、公正かつ自由な競争を大きく阻害すると指摘しました。また大林組についても、最初に申告し「真相解明に協力したという事情を十分考慮しても刑事責任は重い」と批判しました。公取委の方針では基本的に最初に申告した業者は刑事告発しないこととなっております。今回は極めて公共性の高い巨大プロジェクトであり国民生活に広範な影響を及ぼすものであり、また大林組は過去にも同様の談合を行っていたことから刑事告発に踏み切られたものと考えられます。独禁法違反事件に関しては公取委も検察も刑事責任追求には慎重な態度を取っており、訴追されることは稀と言えます。今回は自主申告を最初にしても訴追の可能性があることが示された点に意義があると言えます。取引先と談合がなされていないか、今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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