カルテル等が発覚した場合の企業の対応
2018/07/27 コンプライアンス, 独占禁止法

1.はじめに
全日本空輸の客室乗務員らの制服納入で受注調整を行ったとして、公正取引委員会は12日、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで高島屋、そごう、西武名鉄百貨店に計3186万円の課徴金納付を命じました。
公正取引委員会によると、受注調整にかかわった会社は計6社であり、課徴金納付命令を受けた3社に加え、伊藤忠商事とオンワード商事を合わせた計5社に、再発防止に向けた排除措置命令を出しました。
公正取引委員会によると、6社は、受注調整があったのは2014年12月~17年5月に納入した制服であり、各社は事前に受注予定業者を決め、その業者が最も低い見積価格を提示。全日空に制服の仕様を助言する立場だったオンワード商事が、他5社に完成品の見本を提供するなどしていました。
本記事では、不当な取引制限(独占禁止法2条6項)についてみていきたいと思います。
2.不当な取引制限について
不当な取引制限とは、 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第3条により禁止されている行為であって、「事業者が・・・他の事業者と共同して・・・取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」(同2条6項)をいいます。
これに違反した場合には、以下のような処分が課されることとなります。
(1) 排除措置命令(法7条)
(2) 課徴金納付命令(法7条の2)
(3) 刑事罰(法89条、95条)
このような処分のほか、不当な取引制限によって被害を受けた被害者は、不当な取引制限を行った事業者に対し、損害賠償請求をすることが認められています(法25条)。
3.コメント
丸紅メイトについて、公正取引委員会はその違反を認定しながらも、処分を見送っています。公正取引委員会の発表資料によれば、丸紅メイトについて処分を見送った理由は明らかとなっていませんが、日本経済新聞によれば、違反行為を早期に取りやめたことが理由とされています。
これについて、カルテルや談合等の不当な取引制限に違反しているかどうかは、事業者の間で合意がなされたと認められれば足り、その後に合意を実行に移したかどうかは問題となりません。
このことは、 東京高裁昭和55年9月26日判決においても明らかとされており、独占禁止法2条について、「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する内容の拘束力ある共同行為が行なわれれば、直ちに不当な取引制限が成立することを規定しているものであって、不当な取引制限の罪は、共同行為によってもたらされる競争の実質的制限の外部的表現である共同行為の内容の実施をその成立要件とするものではないと解するのを相当とする。」としています。
しかし、違反した事業者に対し排除措置命令を命ずるか否かという点は、公正取引委員会の裁量によるところでもあります。今回における丸紅メイトのように、違反行為を行っていたと認定されてしまったとしても、早期に取りやめたのであれば、排除措置命令まで受けないということも考えられます。
そこで、企業としては、カルテル等、不当な取引制限違反の行為を行っている事実について認識しうる体制を整備し、これを認識した場合、早期に離脱するという措置をとるべきといえます。
4 具体的な対応策
具体的な方策として、経済産業省が発表している資料( 「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」 報告書)によりますと、違反事実を認識しうる体制として、(1)営業部門等、競合他社と接触する機会のある部署に内部監査を行うことが考えられます。そして、 社内の手続(競合他社との接触に関するルール等)に従って 記録が作成・保存されているかを確認する必要があります。
また、(2) 内部通報のための制度としては、競争法を含めたコンプライアンス全体に関する通報窓口と して、コンプライアンス担当部署等による社内窓口及び弁護士等の外部専門家による社外窓口を設けることが考えられます。
このようにして、違反事実を認識するに至った場合、「・・・合意から離脱したことが認められるためには、離脱者が離脱の意思を参加者に対して明示的に伝達することまでは要しないが、離脱者が自らの内心において離脱を決意したにとどまるだけでは足りず、少なくとも離脱者の行動等から他の参加者が離脱の事実を窺い知るに十分な事情の存在が必要であるというべきである。」(東京高裁H15.3.7)とされていますので、競合他社との受注調整等の会合に今後参加しないほか、会合において競争法上問題があるという疑いを持った場合にはその旨を指摘し会合の中止を訴えるといった方法により離脱の意思を表明することが考えられます。
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