過労事故死と安全配慮義務違反について
2018/02/09 労務法務, 民法・商法, 労働法全般

はじめに
深夜勤務後の帰宅途中にバイク事故で死亡した会社員の男性(24)の遺族が会社に損害賠償を求めていた訴訟で8日、和解が成立していたことがわかりました。帰宅中の事故死に安全配慮義務違反を認めた異例の事案とのことです。今回は過労死と安全配慮義務について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、亡くなった男性は観葉植物を用いた装飾などを手がける「グリーンディスプレイ」(東京都)に努めておりました。男性は2014年4月24日午前9時過ぎ、長時間の深夜勤務を終え、横浜市の職場からバイクで帰宅する途中、電柱に衝突する事故を起こし死亡したとのことです。事故の原因は長時間の過重労働による居眠りであったとされます。男性の遺族は会社側の安全配慮義務違反を理由として約1億円の損害賠償を求め横浜地裁川崎支部に提訴しておりました。裁判所は会社側の安全配慮義務違反を認め和解勧告を行ったとのことです。
過労死と安全配慮義務
会社の従業員が過労死した場合、まず問題となるのが労災認定です。これは所轄の労基署に申請を行ない、認定がなされると各種療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、介護補償などが受けられる行政手続上の問題です。それとは別に会社に対しては民事上の賠償請求がなされることがあります。その根拠となるのが不法行為(民法709条)と安全配慮義務です。安全配慮義務とは一定の法律関係に基づいて社会的接触の関係に入った当事者間において、付随的義務として両当事者が負う信義則上の義務です。これは判例によって認められた概念で(最判昭和50年2月25日)、労働関係に関しては労働契約法に明文化されております(5条)。安全配慮義務に違反した場合は債務不履行として賠償義務を負うことになります(415条)。
安全配慮義務違反の要件
安全配慮義務違反に基づいて損害賠償義務が生じるためには使用者側に過失が認められなければなりません。より具体的には①結果の予見可能性の存在、②結果の回避義務の存在、③それらと生じた損害との間に相当因果関係が存在することが挙げられます。そしてこれらを認定する上で行政通達が参考にされる場合があります。たとえばくも膜下出血や脳梗塞といった脳血管疾患、心筋梗塞、狭心症といった虚血性心疾患の場合には厚労省通達平成13年12月12日基発第1063号があります。また過労自殺の場合には厚労省通達平成23年12月26日基発第1226号第1号が参考とされます。これらは労災認定に関する基準ですが、裁判所の認定においても参考にされていると言われております。これらの要件が認められ、会社側の安全配慮義務違反と損害との間に因果関係が認められたとしても、その事故発生の原因の一部に従業員側の性格や心因的要因があった場合には民法の過失相殺の規定(722条2項)を類推適用して損害額を算定できるとしています(最判平成12年3月24日)。
コメント
本件で橋本英史裁判長は、事故の原因は居眠りであり過労状態を認識していた会社側が公共交通機関の使用を指示するなど事故を避ける措置を採るべきであったとし安全配慮義務違反を認め和解勧告を行ないました。和解勧告は判決ではありませんが、裁判官の心証がある程度固まった段階で当事者に勧めるもので、拒否したとしても、ほぼその内容の判決がでることになります。裁判所としては会社側の結果予見可能性と回避義務を認めたものと言えます。移動中の事故で安全配慮義務違反を認めた事例としては、職場から別の職場への移動中の事故で認めた例(鳥取地裁平成21年10月16日)がありますが、職場からの帰宅中の事故で認めた例はほとんど無いと言われております。時間外労働が月100時間を超えるなどの過労状態があり、その後死亡した場合には安全配慮義務違反が認定される可能性が拡大していると言えます。過労死の典型例である心疾患、脳血管疾患だけでなく、自殺、事故死に関しても注意が必要です。従業員の勤怠状況、安全衛生管理だけでなくメンタル管理に関しても対応していくことが重要と言えるでしょう。
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