西日本新聞社に対する勧告、消費税転嫁特措法について
2018/02/01   コンプライアンス, 民法・商法

はじめに

 消費税は2014年4月に5%から8%へと引き上げられました。2017年4月には10%に増税される予定でしたが、2019年10月まで先送りとなっています(2018/01/31現在)。消費者にとって頭の痛い問題ですが、企業にとってもその影響は小さくないでしょう。そこで、今回は、消費税転嫁対策特別措置法(以下「法」という。)第3条第1号後段(買いたたき)の規定に違反する行為を理由に西日本新聞社になされた勧告(法6条1項)を題材に、同法の規律を見ていきます。

事案の概要

 2017年12月14日の公正取引委員会の発表によると、西日本新聞社は、自らが発行する日刊新聞の販売促進業務(以下「販促業務」という。)について、販促事業者と業務委託契約を締結し、継続して委託していました。そして、販促事業者ごとに、販促要員の報酬単価(以下「要員単価」という。)及び販促要員数に応じた定額の交通費等をそれぞれ消費税を含む額で定め、一定期間における要員単価に販促要員数を乗じた額と交通量等をそれぞれ販促業務の委託料として販促事業者に支払っていました。
 
 また、西日本新聞社は、日刊新聞等に掲載する記事や写真、イラスト等の原稿作成業務を、原稿作成事業者に継続して委託しています。そして、業務内容ごとの委託単価(以下「原稿単価」という。)を消費税を含む額で定め、原稿単価に委託回数を乗じた額を原稿作成業務の委託料として原稿作成事業者に支払っていました。しかし、西日本新聞社は、平成26年4月1日以後も消費税率引上げ分を上乗せせず、従来どおりの算定基準で支払いを行なっていました。

消費税転嫁対策特別措置法の概要

 当該法律は、消費税の転嫁を阻害する行為の是正や価格の表示、消費税の転嫁及び表示の方法の決定に関し特別の措置を講じ、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することを目的(法1条)としています。消費税は製造、卸、小売りなどの各取引の段階で課税されますが、価格に転嫁されて最終的には消費者が負担します。そこで、法第3条第1号後段は、商品又は役務の対価の額を通常支払われる対価に比べて低く定めることにより、消費税の転嫁を拒否すること(買いたたき)を禁じています。これは、特定事業者が特定供給事業者から受ける商品又は役務の供給に関して適用されます。

 対策として公正取引委員会は、特定事業者に対し、法3条の違反行為を防止し又は是正するために、必要な指導又は助言を行ないます(法4条)。また、違反行為があると認めるときは、その特定事業者に対し、速やかに消費税の適正な転嫁に応じることその他必要な措置をとるべきことを勧告し(法6条1項)、その旨が公表(法6条2項)、されることになります。 

買いたたき行為

 買い手側である特定事業者は、大規模小売事業者や特定供給事業者から継続して商品又は役務の供給を受ける法人事業者をいいます。対して、特定供給事業者とは、大規模小売事業者に継続して商品又は役務を供給する事業者や資本金等の額が3億円以下の事業者、個人事業者等をいいます。

 例えば、ある特定供給事業者が、特定事業者に対して10000円の売値で販売したとします。そして、特定事業者は、消費者に対して30000円の売値で販売したとします。消費税が5%であった場合には、消費者は1500円(30000×0.05)を負担し、特定供給事業者は500円(10000×0.05)、特定事業者は差引額1000円((30000-10000)×0.05)を負担することになります。消費税が8%となった場合には、順に2400円、800円、1600円となります。ここで、特定事業者が10800円ではなく、10500円での売値のまま取引を行なうと、特定事業者は300円分の納税を免れた((2400-500)-1600=+300円)ことになり、対して特定供給事業者は300円分余分に負担した(500-800=-300円)ことになります。

 消費税転嫁対策特別措置法は、このような形で特定事業者が特定供給事業者に対して消費税を転嫁してはならないことを定めています。これは消費税が8%から10%になった場合にも同様に問題となります。

他の違反行為

 法は、消費者に誤認を与えたり、納入業者への買いたたきや競合する小売店の転嫁を阻害しないように、消費税に関連するような形で安売りの宣伝や広告を行うことも禁止の対象としています。

①取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示(法8条1号)
例えば、「消費税は転嫁いたしません!」といった広告があります。

②取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から
減ずる旨の表示であって消費税との関連を明示しているもの(法8条2号)
例えば、「消費税上昇分を値引きします!」といった広告があります。

③消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示であって2号に掲げる表示に準ずるものとして内閣府令で定めるもの(法8条3号)
例えば、「消費税分はポイントをお付けします!」といった広告があります。

 同法の違反行為があった場合にも、指導・助言や勧告・公表等の取締りが行われます(法9条)。

コメント

 事業者にとって、違反行為が公表されれば、企業イメージ・信用が著しく失われます。「企業イメージに影響を与えた情報」についてのあるアンケートによると、SNSという個人の発する情報を参考にしている人は77%という結果になりました。また、不祥事があった際に投稿されたSNSも企業のイメージに大きく寄与しているとの回答も目立っています。

 いざ増税がなされた場合に会社を守るべく、消費税の転嫁を拒むことのないよう、自社の役員及び従業員に本事件の内容の周知徹底をするとともに、消費税転嫁対策特別措置法の研修を行うことも有効でしょう。また、公正取引委員会では、消費税の転嫁拒否等の行為に関する事業者等向け説明会及び相談会を実施しています(平成30年1月22日発表)。2月開催ですので、事前申込みの上でお近くの開催地で参加されることもできるでしょう。さらに、契約書審査をする場面では、税込価格であるか税別価格であるかのチェックを行なっていくことも必要と思われます。1080円(税込み)といった契約書であれば、1000円(税別)とするなど、将来的な増税を見据えた対応が考えられると思います。

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