「はれのひ」社長依然不明、行方不明者への"送達手段"について
2018/01/24   民事訴訟法

はじめに

今月8日の成人の日に振り袖のレンタル業を手がける「はれのひ」(横浜市)が突然営業を停止した問題で、社長は依然行方不明となっており、関係取引先は混乱が続いているとのことです。訴訟や督促をするに際して相手方が不明の場合どのようにするべきか。今回は民事訴訟法上の送達について見ていきます。

事案の概要

振り袖の販売やレンタルを展開してきた「はれのひ」は今月8日の成人の日に突如営業を取りやめ社長や従業員は行方不明となり、成人式に晴れ着を着られない新成人が相次ぎました。被害総額は約2億円以上とされております。同社の男性社長(55)は依然として行方不明で、被害者の会の立上げや、被害を受けた新成人のために成人式を改めてやり直す声などが上がっております。一方同社と取引のあった着物卸売問屋などの関係業者は数千万円の未回収代金を抱え途方にくれているところもあるとのことです。

送達とは

送達とは、裁判所が当事者その他の訴訟関係人に対し、訴訟上の書類などを交付するなどの通知行為を言います。訴訟を提起したときの訴状の送達が代表例ですが、支払督促なども含まれます。送達がなされなければ訴訟手続きや期間の計算などが進行せず、非常に重要な手続きといえます。そこで民訴法では送達方法などについて詳細に規定されております。

送達機関

送達事務を取り扱うのは裁判所書記官となります(民事訴訟法98条2項)。そして実際に送達の実施を行う送達実施機関は執行官か郵便従事者ということになります(99条1項、2項)。送達事務取扱者である書記官が郵便または執行官に送達を依頼し、送達報告書を受け取ります。送達が成功しなかった場合には、同じ方法を継続するか、他の送達方法を試みるかなどを决定し、原告への通知や回答を求めることになります。実際の送達はほとんどが郵便によりますが、執行官は裁判所の近隣への送達や夜間、休日の送達が必要な場合に行うことになります。

送達の種類

(1)交付送達
送達は送達を受けるべき者に書類を交付して行うのが原則です(101条)。通常は送達を受けるべき者の住所、居所、営業所や事務所で交付します(103条)。郵便従事者が行う場合を特別送達と言いますが(郵便法44条、49条)、ほとんどの場合これに当たります。交付送達には他に出会送達と補充送達があります。出会送達とは上記の送達場所以外で、相手方と出会った場所で交付することができます(105条)。補充送達とは就業場所以外の送達場所で送達相手に出会わない場合に、その使用人や従業員、同居者等の「相当のわきまえのあるもの」に交付することを言います(106条)。

(2)差置送達
送達相手や補充送達を受けることができる「相当のわきまえのあるもの」が「正当な理由」なく送達を受けることを拒んば場合、書類を送達すべき場所に置いてくることができます。これを差置送達と言います(106条3項)。これでも送達の効力が生じることになります。

(3)付郵便送達
補充送達や差置送達もできない場合に、裁判所書記官は送達書類を送達すべき場所に宛てて、書留郵便によって発送します。これを書留郵便に付する送達(付郵便送達)と言います(107条)。この場合、発送した時点で送達の効力が生じます(同3項)。付郵便送達を行うかどうかの决定は書記官の裁量に委ねられており、収集した資料等により合理的に判断されることになります(最判平成10年9月10日)。送達すべき住所や居所、事務所などに相手が不在で交付や差置きができない場合に利用されます。

(4)公示送達
相手方の住所、居所、事務所などの送達すべき場所すら不明で付郵便送達も不可能な場合になされるのが公示送達です(110条)。公示送達は書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも受けるべき者に交付する旨を裁判所の掲示板に掲示して行われます(111条)。そしてその掲示を始めた日から2週間経過することによって送達の効力が発生します(112条)。また公示送達がなされた旨、新聞や官報に掲載されることもあります(民事訴訟規則46条2項)。相手が実際に送達の事実を知らなくても効力が生じるというわけです。

コメント

本件で「はれのひ」の店舗は誰も居らず閉まった状態のままとのことです。仮に「はれのひ」を相手取り訴訟や支払督促を行う場合は、同社の男性社長に送達することになります。しかし店舗は空で社長はすでに行方不明となっていることから、居留守なで受け取らない場合と違い付郵便送達はできず、公示送達によることになります。公示送達は裁判所に掲示しただけで送達の効力が発生することから悪用の危険もあり、要件は厳しく、申立には詳細な現地調査報告が必要になります。訴訟の係属も送達によって生じることから、送達はとても重要な手続きであり、また時効間際の場合は送達がより深刻な問題となります。そこで以上のように様々な送達方法が用意されております。相手が受け取らなかったり、相手が所在不明となっていたとしても、どのような送達方法があるかを把握し焦らずに対処していくことが重要と言えるでしょう。

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