働き方改革における新たな時間外労働規制
2018/01/24   労務法務, 労働法全般

はじめに
 「我が国に染みついた長時間労働の慣行を打ち破ります。史上初めて、労働界、経済界の合意の下に、36協定でも超えてはならない、罰則付きの時間外労働の限度を設けます」。
 これは、22日の衆議院本会議における安倍首相の演説の一部です。この発言からは、安倍首相の働き方改革に対する並々ならぬ決意が読み取れます。ここにいう「罰則付きの時間外労働の限度」に違反すれば、罰則の対象になることはもちろんのこと、当該企業に対する社会的評価の著しい低下を招くことは間違いありません。そこで、今回は、現行の時間外労働規制と、働き方改革において導入が予定されている時間外労働規制について見ていきます。
現在の時間外労働規制の概要
使用者は、原則として、労働者に対して、休憩時間を除いて1週間に40時間を超えて労働させることができません(労働基準法32条1項)。また、使用者は、原則として、労働者に対して、休憩時間を除いて1日に8時間を超えて労働させることができません(同条2項)。これらの規制の枠内にある労働時間が法定労働時間であり、これらの規制を逸脱した労働時間における労働が時間外労働です。時間外労働を適法に行わせるためには、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との間で協定(いわゆる36協定)を締結する必要があります(同法32条の2第1項)。36協定の締結をせずに時間外労働をさせた場合、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同法119条1号)。
新たな時間外労働規制の概要
 働き方改革で導入が検討されている時間外労働規制の概要は、以下の通りです。
・36協定を締結しても、原則として、1か月あたり45時間までかつ1年あたり360時間までしか、時間外労働をさせることができなくなります。
・臨時的な特別の事情がある場合として労使が合意して労使協定を結ぶ場合であっても、年間720時間を超えて時間外労働をさせることができません。これに加えて、①2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の平均で、いずれにおいても休日労働を含んで80時間以内、②単月では休日労働を含んで100時間未満、③原則を上回る特例の適用は年6回まで、という制限がかかります。
・上限値までの協定締結を回避する努力が求められる点で労使が合意したことに鑑み、さらに可能な限り労働時間の延長を短くするため、新たに労働基準法に指針を定める規定を設け、行政官庁は、当該指針に関し、労使等に対し、必要な助言・指導を行えるようにする。
・事前に予測できない災害その他避けることのできない事由については、労働基準法33条による労働時間の延長の対象となっており、この措置は継続される。この措置の内容については、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応や大規模なリコールへの対応なども含まれることを明確化することが予定されている。
・企業本社への監督指導等の強化策として、過重労働撲滅のための特別チームによる重大案件の捜査、企業本社への立入り調査・指導、企業名公表制度を推進する。
コメント
 首相官邸が公表している働き方改革実行計画によれば、急激な変化による弊害を避けるため、法施行までに十分な時間を確保することが予定されています。また、違法な時間外労働を容認している企業に対する世間の目は非常に厳しいものとなっています。法施行までに十分な準備期間が確保されていたにもかかわらず新たな規制に違反したとなれば、その企業に対する世間の目はさらに厳しいものになると考えられます。
 今回ご紹介した新たな時間外労働規制の概要は、日本労働組合総連合会、日本経済団体連合会の両団体が時間外労働の上限規制等に関して労使合意したことを踏まえて、定められたものです。したがって、実際に成立・施行される法規制が、今回ご紹介した内容と大きく異なるということはないと思われます。今後も、働き方改革の動向に注意が必要です。
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