不正車検で収賄容疑、みなし公務員への贈収賄について
2017/10/03 コンプライアンス

はじめに
大阪府警は2日、不正に車検を通す見返りに現金を受け取ったとして収賄の疑いで、自動車整備会社「空港自動車工業」(大阪府池田市)の経営者、志賀直樹容疑者(46)と検査員2人を逮捕していたことがわかりました。一定の民間業者への贈収賄。今回は「みなし公務員」について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、自動車整備会社「空港自動車工業」の検査員2人は2011年頃から中古車販売業者から依頼を受け、マフラーやリアウイングなどを改造した違反車両を1台2万円程度で不正に車検を受け、車検に通していたとのことです。大阪府警の調査によりますと、2人は約2600台の不正車検を行ない、それにより約5150万円の報酬を受けていたとされております。そして同社の実質的経営者である志賀容疑者は業者から11台の車両について点検をしていないのに虚偽の保安基準適合証を交付し、約21万円を受け取ったとしています。また大阪府警は同社に依頼した兵庫県川西市の中古車販売業者など8業者も贈賄などの容疑で摘発したとのことです。
贈収賄と公務員
刑法197条1項によりますと、「公務員」がその職務に関し、「賄賂」を収受し、またはその要求、約束したときは5年以下の懲役に処するとしています。一般的に知られているように贈収賄の罪は公務員に対して賄賂を渡すことにより成立します。公務員の職務の公正とそれに対する国民の信頼を保護することを目的としているからです。ここに言う「賄賂」とは、公務員の職務に関連する不正の報酬としての一切の利益を言い、およそ人の需要または欲望を充たすものであれば足りるとされております(大判明治43年12月19日)。つまり金銭のみならず、未公開株を買う権利や異性間の情交などあらゆるものが該当するとされます(最判昭和36年1月13日等)。収賄には様々な類型があり、単に賄賂を受けたり要求したり約束をする単純収賄、一定の公務の依頼を伴う受託収賄、公務員の不正行為を伴う加重収賄、公務員が他の公務員に不正行為を働きかける斡旋収賄などがあります。そして公務員に賄賂を供与、申込み、約束をする行為が贈賄罪に当たることになります(198条)。
みなし公務員とは
公務員ではないけれど、公務員の職務を代行する場合や、その職務内容が公務に準ずるほどの公益性・公共性がある場合には法律上公務員と同じ扱いを受ける場合があります。これを「みなし公務員」と言います。公務員と同様に守秘義務が課され、贈収賄罪や公務員職権濫用罪、虚偽公文書作成罪などの刑法の規定が適用されることになります。また特別法で贈収賄規定が設けられている場合もあります。
みなし公務員の例
みなし公務員には様々なものがあり、日本銀行や日本郵便、国立大学法人などわかりやすいものもありますが、民間業者が国の指定を受けている場合などわかりにくい例もあります。たとえば駐車監視員(道路交通法51条の12、7項)や教習所の技能検定員(同99条の2、3項)、職業技能検定委員(職業能力開発促進法)、自動車検査員(道路運送車両法94条の7)、各高速道路株式会社、NHKの役員、JRAの調教師、騎手、そして建築確認の指定確認検査機関(建築基準法77条の8、3項)などがあげられます。
コメント
本件で空港自動車工業の検査員は道路運送車両法上、地方運輸局に届出がなされ、車両の検査を行ない保安基準適合証を作成することができる「みなし公務員」に該当します。中古車業者からの請託を受け、安全基準に満たないにも関わらず適合証を作成していた場合、賄賂を受けて不正な行為を行っていたことになり、加重収賄に該当することになります。また中古車業者側も贈賄罪に当たることになります。このように民間の業者であっても、法律上は公務員として扱われ、贈収賄や秘密漏洩に当たることもあります。また建築確認の指定確認検査機関のように判例上その業務が自治体が行ったものと扱われる場合があります。こういった業者を相手に訴訟をする場合は、民間業者相手でありながら行政訴訟となることがあります(最決平成17年6月24日)。この事例では業者の行った行為について、市への国賠請求を認めております。業務上、このような業者と取引がある場合には、法令上どのような性質が与えられているのか、みなし公務員であった場合はどのような行為が違法となるか、また訴訟となった場合には民事、行政訴訟のいずれになるかを正確に把握することが重要と言えるでしょう。
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