スズキが始業前体操分の未払い賃金の支払いへ
2017/08/17 労務法務, 労働法全般

1.はじめに
スズキ相良工場(静岡県牧之原市)は、6月に島田労働基準監督署から是正勧告が出されたことを受け、2016年6月から2017年2月分として、従業員約500人に計約1000万円を支払いました。
当工場では、始業前に任意で、約5分間の体操、始業後に1、2分の朝礼を実施していました。
しかし、一部の部署で体操への参加が任意であることが伝わっておらず、始業前に朝礼を行っている場合もあったことがわかりました。
2.労働時間とは
労働時間とは、日常用語として使用する場合には、休憩時間を含めた純粋な拘束時間を指すことがあります。
しかし、労働基準法上は、休憩時間を除く実際の労働時間、つまり、労働者が使用者に労務を提供し使用者の指揮命令に服している時間、という客観的な基準に基づいて定義されています。
というのも、労働基準法が当事者の合意に優先する強行法規(労働基準法13条)であるため、労働時間に該当するか否かは、当事者の主観的な意思によっては左右されず、客観的に決まるものであるという理解が一般的であり、最高裁判所もこうした立場をとっているからです(三菱重工業長崎造船所事件、最一小判平成12年3月9日)。
そうであるとすると、今度は使用者の指揮命令に服しているかどうかの判断も必要となりますが、わかりやすく言えば、自らの意思で自由にできない時間を指しているといえます。したがって、たとえ使用者の支配拘束下にあったとしても、労務提供のための現実の指揮命令下になく、労務提供から解放され自由に過ごすことができる休憩時間は、ここには含まれません。
つまり、ある行為に関する使用者の義務付け、そして、その行為がどの程度職務としての性格をもつかを考慮して考えていくことになりそうです。
3.具体例
住み込みのマンション管理人が、平日には所定労働時間外にも住民の要求に応じて宅配物の受渡し等を行うよう指示され、業務に備えて待機しなければならない状態に置かれていたとして、居室における不活動時間を含めて労働時間に該当すると判断されました(大林ファシリティーズ事件、最二小判平成19年10月19日)。
また、仮眠室で待機することと、警報・電話等に直ちに対応することが義務付けられているので、24時間勤務するビルの警備員の仮眠時間は、労働時間に該当すると判断されました(大星ビル管理事件、最一小判平成14年2月28日)。
4.最後に
このように、その行為が労働時間に当たるか否かは、個別具体的に、その行為が使用者の指揮命令下に置かれたと評価できるか否かにより判断することになります。
上記判断基準をもとに、今回のスズキ相良工場の場合を具体的に考えます。この場合、一般的に考えると体操や朝礼は職務としての性格は認めづらいといえそうです。
その一方で、本件では使用者の義務付けが強いと労働基準監督署が考えたため、労働時間に含まれることになったのではないでしょうか。
したがって、休憩時間や仮眠時間、出張等、それぞれの行為につき、判断基準を具体的に知ることが必要でしょう。
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