高齢者施設運営社長に逆転有罪、火災の責任について
2017/08/02   危機管理, 民法・商法, その他

はじめに

高齢者向け施設「みらい とんでん」で入居者7人が死亡した火災事故を巡り、業務上過失致死罪に問われていた運営会社社長の控訴審で先月27日、札幌高裁は一審判決を覆し、逆転有罪判決を言い渡しました。今回は火災事故等、業務上の過失による事故が発生した場合の責任について見ていきます。

事件の概要

報道などによりますと、認知症の高齢者向けグループホーム「みらい とんでん」(札幌市)で2010年3月、入居者の男女合わせて7人が死亡する火災事故が発生しました。当日午前2時15分頃、1階のストーブ付近から出火して2階建ての建物延べ約250平方メートルが全焼したとのことです。検察側の主張では、男性入居者がストーブの上に衣類を置いたため出火したとし、危険な行動を取りかねない入居者がいるのに適切な措置を取らなかったとしています。それに対し被告人側は、火災の原因は不明で危険の予測は不可能であったとしています。一審札幌地裁は原因が特定できないとして無罪としていました。

刑法上の責任

(1)刑法211条1項では「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者」は5年以下の懲役、100万円以下の罰金となります。注意義務違反の具体的な内容としては、結果予見可能性および結果回避可能性を前提とした、結果予見・回避義務違反となります。どの程度の予見可能性が必要かについて判例は、何らかの結果が生じる一般的・抽象的な危惧感や不安感を抱く程度では足りず、結果とそれに至る因果関係の基本的な部分が予見できれば足りるとしています。因果の過程の詳細な予見までは不要としています(札幌高裁昭和51年3月18日)。
(2)上記の刑法上の責任は、会社の代表者等の責任者が負うことになります。それでは法人である会社自体が責任を負うことは無いのでしょうか。この点については、「人を死傷させた者」と有るように自然人を対象としており、刑法犯の主体として法人は該当しないと考えられております。実際に行為を行うのは自然人であり、違法な行為に対する道義的非難も自然人に対してしかなしえないからです。法人も同時に処罰する場合は各種法令でその旨明文化されております(両罰規定)。つまり本件で法人は対象にはならないということです。

消防法上の責任

店舗やビルのオーナーには消防法上一定の義務や責任が課されていることがあります。これらに違反した場合には、会社代表者や事業者だけでなく、法人にも責任が生じる場合があります(両罰規定)。たとえば防火管理者選任義務違反・消防計画作成義務違反(8条2項)、防火対象物の障害除去違反(5条の3)、防火管理業務措置違反(8条4項)などが挙げられます。これらは責任者の懲役、罰金に加え、法人に対しても1億円の罰金などが課されております。

民事上の責任

民法709条では「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護された利益を侵害した者」はその損害を賠償する責任を負うとしています。ここにいう「過失」とは刑法上の過失と基本的に同じで、予見可能性を前提とした結果回避義務違反とされております(東京地裁昭和53年8月3日)。この責任は刑法犯とは違い自然人だけでなく法人も負うことになります。

コメント

本件では火災の原因およびそれに対する予見可能性が主な争点となっておりました。一審では入居者がストーブに衣類を置いたことが原因であるとは特定できないとして否定しましたが、二審では警察の燃焼実験や、ストーブに残っていた繊維などから、それが原因となったと認定し、高齢の認知症患者がこのような危険な行為に及ぶことは予見が可能であり、安全性の高いストーブに交換するなど結果回避義務を怠ったとしました。高齢で認知症という入居者の性質から、一般人の場合よりも、より高度な注意義務を認めたものと考えられます。以上のように結果予見可能性や回避義務はその施設の規模や役割、利用者の性質や人数などのあらゆる要素によって総合的に判断されるものと言えます。火や水を扱う施設、高齢者や子供などの年少者が利用する施設など、注意義務の程度はより高まります。これらの点に留意して、事故を予見し、回避措置を講じることが重要と言えるでしょう。

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