富士フイルムが提出延期を申請、有価証券報告書とは
2017/06/28 商事法務, 金融法務, 金融商品取引法, 会社法, メーカー

はじめに
富士フイルムは28日、2017年3月期の有価証券報告書の提出期限を1ヶ月延期するよう申請した旨発表しました。海外子会社での不適切会計により監査に時間がかかる見通しであるためとのことです。今回は金融商品取引法が規定する有価証券報告書について見ていきます。
事案の概要
報道等によりますと、2015年7月、富士ゼロックスのニュージーランド子会社で不適切取引が行われている旨の告発がありました。調査の結果、同社の中堅幹部が顧客とのリース契約の際に利用想定量を過大計上し、契約期間満了前にそれまでの売上を取り消さず、新たな売上を計上し、さらに販促費用も売上に加算し、これらをリース債権として計上するなどの不適切会計を行っていたとのことです。本社からの業績達成の過大な圧力とインセンティブ報酬の割合が高い報酬体系が原因とされております。親会社の富士フイルムは本件不適切会計発覚により決算の訂正と監査に時間がかかり今月12日に決算発表を行っておりました。また今月30日が期限となっていた有価証券報告書についても来月31日までの延期を関東財務局に求めました。
有価証券報告書とは
有価証券報告書とは金融証券取引法24条によって事業年度ごとに作成し開示しなくてはならない企業内容を示した報告書を言います。一般投資家に十分な投資判断資料を提供するために一定の企業に報告・開示を義務付けており、有価証券発行者の事業内容、財務内容等を公正かつ適切に開示し、もって投資家保護を図る制度と言えます。
提出義務者
有価証券報告書は、以下のような株式会社に提出が義務付けられております。該当する会社は各事業年度終了後3ヶ月以内に金融庁に提出することになります。
①金融商品取引所に株式を公開している会社。
②店頭登録している株式の発行会社。
③募集または売出しにあたり有価証券届出書または発行登録追補書類を提出した有価証券発行会社。
④保有者数が1000人以上の株券または優先出資証券、保有者が500人以上のみなし有価証券の発行会社。
なお有価証券届出書は50名以上に申し込みの勧誘を行い、かつ発行総額が1億円以上の場合に提出義務があります(4条1項)。
記載内容
有価証券報告書には次の内容を記載することになります。①企業の遠隔や事業内容などの企業概況、②業績や契約、研究開発などの事業状況、③設備状況、④株式に関する配当や株価の推移などの状況、⑤貸借対照表等の財務諸表や連結財務諸表などが挙げられます。これらを記載して毎事業年度終了後3ヶ月以内に内閣総理大臣(各財務局)に提出することになります。なお2004年6月以降は金融庁所管のEDINETにより電子提出をすることになります。また有価証券報告書を提出する会社は会社法条の決算公告は免除されます(440条4項)。これは決算公告よりも詳細な報告書を提出するからです。
コメント
本件で富士フイルムは子会社である富士フィルムの不適切会計が発覚し、決算書類の提出とそれに対する会計監査人による監査のやり直しを余儀なくされました。有価証券報告書には上記のとおり連結財務諸表なども記載することなっており、これらの訂正、再監査が終わらないと提出できないことになります。このように有価証券報告書は当該企業の業績だけでなく、関連会社についても記載が求められます。なお有価証券報告書に虚偽記載を行った場合は10年以下の懲役、1千万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(197条1項1号)。また不実記載のある有価証券報告書を参考に投資家が取引を行い損害が発生した場合は投資家に対し賠償義務を負い、投資家は証明責任等が軽減されております(21条の2)。一定規模の株式等を発行する企業は、それ相応の投資家が関与することから、公告義務が荷重されていると言えます。有価証券報告書の提出義務がある企業はその記載、報告に細心の注意を払うことが重要と言えるでしょう。
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