米最高裁が被告の「居住地」を限定、米特許訴訟の管轄について
2017/05/31 海外法務, 知財・ライセンス, 外国法, その他

はじめに
日経新聞電子版は29日、米連邦裁判所が特許侵害訴訟の管轄地について、被告の本社や事業所の所在地の裁判所に提訴すべきとの判決を出していた旨報じました。特許訴訟の頻繁な米国において、いずれの裁判所で訴訟ができるかは重要な問題です。今回は米連邦法における裁判管轄について見ていきます。
事件の概要
米食品大手クラフト・ハインツグループ傘下の企業が同じく米食品大手TCハートランドを相手取り特許侵害を理由に訴訟を提起していました。クラフト側は同社の本社が所在するデラウェア州連邦地裁に提訴していましたが、ハートランド側は自社の本社が所在するインディアナ州の連邦地裁への移送を求めていたとのことです。クラフト側は商品の販売を行っている地も「居住地」に該当するとしてデラウェア州連邦地裁にも管轄権が認められる旨主張しておりました。これに対し連邦最高裁はハートランド側の主張を認めインディアナ州連邦地裁への移送を認めました。
裁判管轄とは
裁判管轄とは、どこの裁判所に訴訟を提起するか、すなわち裁判所間の裁判権行使の分担を言います。日本においては、通常の訴訟ではまず被告の住所地、主たる事務所又は営業所の所在地が管轄裁判所となります(普通裁判籍 民訴4条1項)。さらに財産上の義務履行地や不動産の所在地、不法行為地などにも提訴できる場合があります(特別裁判籍 5条各号)。特許や実用新案等の知財訴訟については東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁、控訴審は東京高裁のみの専属管轄となります(6条1項、3項)。意匠、商標、著作権の争いに関しては通常の管轄に加えて東京地裁、大阪地裁にも提訴できます(6条の2)。
米国特許侵害訴訟の管轄
(1)審判事項管轄権
米国での特許侵害訴訟はどの裁判所に提起すべきでしょうか、審判事項管轄権がまず問題となります。審判事項管轄権とは日本の民事訴訟で言うところの「事物管轄」のことです。事物管轄とは訴訟の内容や性質、訴額等に関してどの裁判所が分担すべきかの定めを言います。米合衆国憲法3条によりますと、特許権、商標権、著作権等の知財訴訟、海事訴訟、破産事件、独禁法事件、国に対する訴訟等は連邦裁判所が専属管轄となっております。米国は合衆国であることから各州裁判所と連邦裁判所が併存しており、まずどちらに提起すべきかが問題となるのです。特許侵害訴訟は連邦裁判所ということになります。
(2)対人管轄権
それでは次にどの連邦裁判所に提起すべきなのか、対人管轄権が問題となります。対人管轄権は日本で言う「土地管轄」のことで日本においては上記のとおりです。米連邦法では①被告が「居住」する地、②被告が侵害行為を行っており、かつ事業拠点を持つ地が管轄裁判所となります(一般管轄)。それに加え適正・公平の観点から③最小限度の接触が認められる地の裁判所にも特別に管轄権が認められる場合があります(特別管轄権)。
コメント
本件でクラフト側は同社が所在するデラウェア州連邦地裁に提訴しました。通常であれば相手方の所在地であるインディアナ州連邦地裁に提訴すべきところですが、過去の裁判例から商品の販売を行っている地も「居住」する地に該当するとしてデラウェア州で提訴しました。これまで下級審裁判例では連邦法の「居住」に商品販売地も含まれるとして広く管轄が認められてきた傾向があるとのことです。しかしこれでは公平と被告の便宜を図ることを趣旨とした管轄規定の意味が損なわれることになると言えます。今回最高裁は「居住」するとは登記上本社が存在することであると限定し、これまでの拡大解釈を否定しました。これにより特許権を買い取って特許訴訟を乱発し利益を稼ぐ、いわゆるパテントトロールの活動が困難になるとのことです。近年米国で経営する日本企業もその標的となっており、この最高裁判決によって応訴がしやすくなると言えます。米国で事業所所在地以外に提訴された場合にはこの判例を援用し、移送の申立を行うことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報

- 業務効率化
- Hubble公式資料ダウンロード

- 業務効率化
- Mercator® by Citco公式資料ダウンロード

- まとめ
- 経済安全保障法務:中国の改正国家秘密保護法の概要2024.3.15
- 2024年2月27日, 中国では国家秘密保護法(原文:中华人民共和国保守国家秘密法)の改正が成...

- ニュース
- 最高裁、父親の性的虐待で賠償認めず、民法の除斥期間とは2025.4.23
- 子どもの頃に性的虐待を受けたとして40代の女性が父親に損害賠償を求めていた訴訟で16日、最高裁...
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号
- セミナー
森田 芳玄 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 パートナー/東京弁護士会所属)
- 【オンライン】IPOを見据えた内部調査・第三者委員会活用のポイント
- NEW
- 2025/05/21
- 12:00~12:45
- 弁護士
- 原内 直哉弁護士
- インテンス法律事務所
- 〒162-0814
東京都新宿区新小川町4番7号アオヤギビル3階

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分

- 解説動画
斎藤 誠(三井住友信託銀行株式会社 ガバナンスコンサルティング部 部長(法務管掌))
斉藤 航(株式会社ブイキューブ バーチャル株主総会プロダクトマーケティングマネージャー)
- 【オンライン】電子提供制度下の株主総会振返りとバーチャル株主総会の挑戦 ~インタラクティブなバーチャル株主総会とは~
- 終了
- 視聴時間1時間8分