消費者庁が内部通報の指針改正
2017/05/13   コンプライアンス, 法改正, その他

1 はじめに

 内部通報制度は、組織内外の関係者から法令違反や不正行為の申告を受け付け、調査・対応するための制度です。コンプライアンス徹底につなげている企業もありますが、中小企業では内部通報制度が浸透しておらず、制度構築が十分になされていないことが多いようです。従業員も通報しても改善される可能性がないと考え、通報や相談には至らないことが多いようです。内部通報制度が機能していない現状を受け、消費者庁は、2016年12月、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を改定しました。
 この指針は、法的な義務を課すものではなく、単なるガイドラインにすぎません。しかし、内部通報制度を整備しないことで、会社役員が会社法上の内部統制システム構築義務違反に問われ、損害賠償責任を負うことがありえます。ガイドラインであっても、法的責任につながることから、どのような中身になっているかは重要といえます。
 ここでは、改正指針のもとになった公益通報者保護法や改正指針そのものを見ていきながら、法務・コンプライアンス担当者が業務の中で行っていく対応を検討していきます。

2 公益通報者保護法

 公益通報に対し、事業者や行政機関がとるべきことを定めることで、公益通報者の保護を図る目的です(同法1条)。
 犯罪や行政規制違反に該当する通報対象事実(同法2条3項各号)が生じ、又は生じようとしていると思料する場合に公益通報の保護要件を満たします(同法3条1号、同法5条)。保護要件を満たせば、事業者が公益通報者に対して、通報を理由とする解雇や不利益取扱いをすることが禁止されます(同法3条、同法5条、なお派遣は4条)。

3 改正指針

 新ガイドラインでは、企業を守る目的に加えて、消費者、取引先、従業員及び社会経済全体の利益を確保し、企業の社会的責任を果たすことが目的として追加されています。

(1) 経営者の視点
① 経営者の責務
 通報対応を適切に行うため、経営幹部を責任者とし、役割を内部規定等において明文化することが適切とされています(ガイドラインⅡ1.(1))。

② 通報対応の外部化
 外部の通報窓口として、法律事務所や民間の専門機関、事業者団体や同業者組合などの関係者共通の窓口を設置することが適切であるとされています。
 消費者庁の調査では、通報窓口を社外に設置している会社が67%(社内と社外の併設含む)、社内にのみ設置している会社が32%でした。また、通報窓口を社外に設置している会社の設置場所は、法律事務所(70.8%)が最も多く、親会社や関連会社(22.7%)、通報受付の専門会社(14.9%)、労働組合(1.9%)がこれに続きます(参考:消費者庁「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」(平成29年1月)30,31頁、PDF直リンク)。

③ 独立性を有する通報ルートの整備
 経営幹部からも独立性を有する社外監査役や社外取締役を通報窓口として、通報ルートを拡充することも求めています。

(2) 通報者の視点
① 秘密保持の徹底
 匿名の通報であっても、通報者と窓口担当者が双方向で情報伝達を行なえる仕組みを導入することが望ましいとしています。ウェブサイトも連絡手段として活用し、勤務時間外・事業所外で面談することで、秘密を守ることが必要とされています。
 事実関係の社内調査も、たとえば抜き打ち監査を装ったり、該当部署以外の部署にもダミーの調査を行うといった工夫を求めています。

② 不利益な取扱いの禁止の徹底
 通報に対する制裁として、降格や配転、減給、事実上の嫌がらせといった不利益取扱いを禁止することが明記されました。

③ 自主的な通報者に対する懲戒処分等の減免
 法令違反などに関与した者が、問題の早期解決に協力した場合には、懲戒処分等を減免する仕組みを整備することも考えられます。

参考:東浩『CASESTUDY 内部通報 番外編民間事業者向けガイドライン』BUSINESS LAW JOURNAL 108号(2017年3月)82頁

4 具体例

 たとえば、規約上1ライセンス1台にしかインストールできないソフトウェアを、職場の複数パソコンに不正インストールすれば、企業がメーカーに損害賠償責任を負うことになります。
実際に、2009年に石川県庁内でPhotoshopやMicrosoft Office等のソフトウェアの違法コピーされていた事例では、同県庁が約4000万円を米マイクロソフトに支払うことで和解が成立しています。これは、BSA(The Software Alliance/ビジネスソフトウェアの不正対策等を行う非営利団体)が組織内違法コピー撲滅のため開設している情報提供窓口への通報が端緒となり発覚したものです。早期の段階で内部通報により、自社内で不正コピーで対応できれば、不正コピーの大規模化を防ぐことができた可能性があります。そして、上記のようなソフトでは1本あたりの単価が高く、不正コピーの数も組織で数十以上となれば、総額も100万円以上になってきます。
 法務・コンプライアンス担当者としては、経済的損失を未然に防ぐために、積極的に内部通報できる体制を整えることが求められます。

参考:東浩『CASESTUDY 内部通報 第11回 知的財産権、情報管理』BUSINESS LAW JOURNAL 107号(2017年2月)86頁

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