独占禁止法の課徴金制度改正への動き
2017/05/01 独禁法対応, 独占禁止法, その他

はじめに
公正取引委員会の有識者研究会は25日、独禁法の現行の課徴金制度について現在の情勢に合わせた改正を進めるべきであるとの報告書を発表しました。公取委の裁量の幅を広げ、減免制度もより実効性が高く企業にとっても協力しやすい制度にするべきとのことです。今回は独禁法の課徴金制度について改めて見ていきます。
課徴金制度とは
課徴金とは一定の独禁法違反行為に対して課される一種の制裁金です。その趣旨は違法な利益を剥奪することによってカルテルや談合といった公正な競争秩序を阻害する行為を防止する点にあります。独禁法違反行為があった場合公取委は一定の手続を踏んだ上で対象事業者に課徴金を国庫に納付するように命じることになります(7条の2、20条の2~6)。課徴金は通常の罰金や過料と比べて相当高額になります。場合によっては100億円を超えることもあり、海運カルテル事件で日本郵船に対して出された131億円が過去最高額となっております。
課徴金対象行為
数ある独禁法違反行為のうち課徴金納付命令の対象となっているのは①カルテル、談合といった不当な取引制限(7条の2第1項)、②支配型私的独占(同2項)、③排除型私的独占(同4項)、④共同と取引拒絶(20条の2)、⑤差別対価(同3)、⑥不当廉売(同4)、⑦再販売価格の拘束(同5)、⑧優越的地位の濫用(同6)の8類型となります。不公正な取引方法のうち排他条件付取引や拘束条件付取引といった一般指定に規定された行為は対象外となっており、法定類型のみに課徴金が課されることになります。
課徴金の算定率
課徴金の算定率は各行為類型と事業者の業種によって異なります。不当な取引制限と支配型私的独占の場合は製造業で売上の10%、小売業で3%、卸売業で2%。排除型私的独占の場合はそれぞれ6%、2%、1%。取引拒絶等の場合はそれぞれ3%、2%、1%となります。算定の基礎となるのは基本的に国内における売上額で最長で3年間分となります。繰り返し違反している場合や主導的役割を担っている場合には算定率が割増され、最大で20%となります。
課徴金減免制度(リニエンシー制度)
課徴金納付命令の対象行為を行った事業者が、自ら違反内容を公取委に自主的に申告した場合、一定の割合で課徴金が減免されます(7条の2、10項等)。最初に申告した事業者は100%、2位が50%、3位から5位が30%減免されることになります。同一の企業グループ内の複数の事業者は一定の場合共同で申告することができ、それらは同一順位とされることになります。公取委が調査を開始した後の場合は30%の減免のみとなります。通常は違反の疑いがある場合、公取委へ事前相談を経てFAXで申請書の提出となり、それにより順位が決定します。
コメント
現在課徴金制度は以上のようになっております。今回発表された有識者研究会の報告書ではまず、課徴金の算定率を業種別に固定せず行為形態や捜査協力の度合いに応じてより柔軟に額を決定できるようにすべきとしています。また海外企業によるカルテル等、日本で売上がない事業者に対しても課徴金を課すことができるように対応すべきとしています。そして課徴金減免制度についても早い順に5位までと限定せず、また減免割合も協力の度合い等に応じて公取委の裁量で決定できるようにすべきとしています。申請後も公取委の調査をよりやりやすく、また違反事業者にとっても自主申告、捜査協力へのインセンティブを上げることが狙いです。公取委はこの報告を受けて、来年の通常国会に独禁法の改正案を提出する見通しとなっております。改正が実現した場合、違反の捜査、課徴金の賦課決定、額の決定等で公取委の裁量権が大幅に拡大することになります。事業者にとっては公取委に真摯に協力するほどに有利になると言えますが、一方で公取委の権限が拡大し、濫用的な法適用の危険も生じるのではないかと懸念されます。以上の改正の流れも踏まえ、独禁法対策を講じておくことが重要と言えるでしょう。
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